今、私がこの原稿を書いている場所はリビング。
スーツケースの周りに積み上がった大きな荷物の山を横目に、キーボードを叩いている。(このコラムがアップされる頃には既に無事現地に着いているはず)
やらなきゃと思いながらもギリギリまで手をつけるのが億劫な、夏休みの宿題のような存在のあの山は、去年に続き、乗馬と語学のための留学に向かうため。
フランスだけでも今年は6度目、これだけしょっちゅう荷物をまとめていれば、自分だけの持ち物リストも作っているし、さすがに昔よりはスピードアップしたとは思うけれど、正直荷造りはいまだに大の苦手。
特に、洋服については出発リミット1分前までウダウダしてしまうのがお決まりになってしまった。
今回のように初めて行く土地で、さらに長旅となると、気候も空気感も分からないからなかなか余計に定まらず、現地で出会う未知の世界にワクワクする気持ちとは裏腹に、服の準備はというと気分は重く、一向に進みそうにない。
20代の頃はもっと簡単に決まっていたはずなのに、私は服を持ちすぎたのかしら…なんて無駄に考えて現実逃避していたらふと、以前ある媒体でインタビューを受けたときに話したあることを思い出した。
それは、“心地の良い服”について。
私は長らく“心地の良い服”という言葉を「ラクな服なんて」と毛嫌いしていた。
だって私にとって服とは気分をあげてくれるもの。
ありのままの自分をほんのり透けて感じさせながらも、少しだけ何かを味付けして引き上げてくれる、一枚のヴェールのような存在が理想。
だから、ただラクな服なんて、腑抜けになりたい家着だけでいい。
そう思っていたけれど、ある日 ”心地がいい”とは着心地がいい、ラク、という意味だけじゃないと気づいた、という内容だ。
毎朝クローゼットの前で考えることは気温以外ならせいぜい、自分がどんな服を着たい気分か、今日会う人はどんな人か、くらいだった服選びは、歳を重ねるうちいつのまにか、”空間”が重要な位置を占めるようになった。
とにかく時間がなく、でも選択肢は多い大人にとって、あの場所へ気分転換しに行きたい!と急に思い立ったり、偶然通った場所に、寄ってみたい、と思ったりしたときに、この服装じゃちょっと…と躊躇して諦めてしまうのはあまりにももったいない。
無理に入ったところでソワソワしてその場を思い切り楽しめない、なんていうのも残念。
そんな思いをしたくないからこそ、空間に合わない、肩身が狭いと感じる服は着たくない。
場に馴染みたいにしても、そこで目立ちたいにしても、ソワソワせずウキウキできる自分でありたい。
いつでも自分らしくいたいからこそ、居心地のいい服は大切なのだ。
ただそれは、普段自分の好みや行動範囲をはっきりと知っているからこそなせる技。
きれいめだからいい、おしゃれだからいい、という一辺倒なことだけじゃないから難しい。
さあ一体、これから行く土地で私が行きたい場所はどんなところだろう。
つべこべ言わずにそろそろいい加減、荷造りにとりかからねば。
さて、貴女は、装いにどんな心地の良さを求めていますか?好きな空間とはどんな場所ですか?
パリでの滞在中、皆さまからのご質問に白澤さんがお答えいただく企画を予定しています。ファッションはもちろん、ファッション以外のご質問も大歓迎!
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