40代という年齢は、いろんなことを考えさせられる。確かに体力は衰えてきた。肌も、体型も、若い頃のそれとは確実に違ってくる。これから先のことを思うと気分が落ち込んだり。「四十にして惑わず」になんて古い言葉があるけれど、むしろ今まで以上に惑うことも増えてきた。
そんな中で、どう年齢を重ねていけばいいのか。歳月を経るごとに味わい深くなっていく俳優の大森南朋さんに、そんな話を聞いてみました。
大森南朋(おおもり・なお)
1972年2月19日生まれ。東京都出身。1996年のCM出演をきっかけに本格的に役者としての活動を開始。04年、映画『ヴァイブレータ』『赤目四十八瀧心中未遂』の演技で第25回ヨコハマ映画祭助演男優賞を受賞。07年、主演ドラマ『ハゲタカ』(NHK総合)が話題を呼び、2008年エランドール賞新人賞を受賞。その後の映画版『ハゲタカ』では日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞。近年の主演作品に、映画『この道』、ドラマ『サイン-法医学者 柚木貴志の事件-』(テレビ朝日系)など。
40を過ぎたから、もうこれをしちゃダメってことはない
「僕なんかは普通に枯れていってるだけです、ノットアンチエイジングなんで(笑)」
目元に優しい皺をたたえて、大森さんは話しはじめます。
「でも、それはそれでいいかなと思っています。無理して若作りする必要もないですし。年をとるのを楽しみにするべきだなとは思っています」
年をとるのを楽しむが理想であるとはわかっているけれど、なかなかそうした前向きさを持てないことも。大森さんは40代の惑いを感じたことはなかったのでしょうか。
「一時期、ありました。仕事に対してすごくルーティンになっている時期が。確か42、3歳ぐらいのときかと。惰性といいますか、モチベーションをどう持てばいいのかわからない時期はありました。でも、それが面白いものでして、この年になってくるとまた気持ちが変わってくるんです。いや、むしろもっといけるなと。50手前になって、動けるうちにもっといろいろやっておこうと。そういう開き直りを持てるようになりました」
キャリアを積んで、スキルも身につけ、自分である程度何でもコントロールできるようになるからこそ感じる倦怠感や停滞感。それを打ち破ったのは、“外からの刺激”でした。
「映画や舞台を観に行ったり、お酒を呑んだりしている中で、はたと気づいたんです。僕がこういう時間を好きなのは、刺激をもらえるからなんだって。外からの刺激がないと、どんどん自分が澱んでくるじゃないですか。40を過ぎて『月に吠える。』というバンドを始めたのも、何か新しいことをやりたかったから。そのきっかけをずっと探していたんだと思います」
老いることに無理やり逆らったりはしない。けれど、どうせなら楽しみながら年をとっていきたい。大森さんがどんどん余裕と遊び心を身につけているように見えるのは、意識的にたくさんの刺激を得ることで、いつも心に新しい風を送り込んでいるからです。
「まだやれることがたくさんあると思います、40代は。40を過ぎたから、もうこれをやっちゃダメってことはない。車の運転は年をとったら気をつけなければいけないですが、それ以外なら特に。だから、いろんなものから刺激をもらって、何かを学びはじめるのはとてもいいことだと思います。僕も映画監督もしてみたいなって思いますし、バンドもまだ続けるつもり。新しいことをやり続けて、つまずきながら、まだまだ生きていくのかなと」
肉体的、精神的な衰えに対して不安や憂鬱な気持ちになるのは、ごく自然なこと。だからこそ、40代になってからは自ら積極的に楽しむマインドを持つことが大事だと、大森さんは言います。
「37歳ぐらいがちょうど良かったなと思うこともありましたけど、今は年をとるのが楽しい。目指せ60代っていう感じで。その年その年の楽しみ方を知っていきたいし、わかるべきだと思う。周りにはカッコいい先輩たちがいっぱいいますし。その先輩たちと一緒にいると僕なんてまだまだ小僧。全然足りてないなって思います」
中年同士が、キャッキャと好きな芝居ができる場所
楽しく年齢を重ねるために欠かせないのが刺激だとしたら、今、大森さんの心を最も刺激しているのは、12月から上演の主演舞台『神の子』。映画『その夜の侍』や『葛城事件』を手がけた劇作家・演出家の赤堀雅秋さんが作・演出を務め、ヒロインは長澤まさみさん。さらに、盟友・田中哲司さんら実力者が脇を固めるなど、贅沢な顔ぶれが揃いました。
本作が生まれたきっかけは、今から約4年前。2016年初冬に上演された舞台『同じ夢』でタッグを組んだ大森さん、赤堀さん、田中さんの3人が、「また一緒にやりたい」と自分たちで今回の公演を企画。俳優自らキャスティングを行い、この思わず唸るような出演陣が集結しました。大森さんは、赤堀さん、田中さんの3人とものづくりを行うこの現場を、「純粋に挑戦ができる場所」と位置付けます。
「赤堀くんが、この現場では事務所の都合とかそういうしがらみに縛られず、ものづくりができると言っていて、その気持ちはすごく共感できますし、そうやって自由につくっている赤堀くんと一緒にやれることで、僕自身も自由を感じられるんです。哲司さんとは、もう20年ぐらいの付き合いで。中年がふたりしてキャッキャキャッキャと好きな芝居ができるなんて、こんな楽しいことはないです(笑)」
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