日本は世界でも屈指の災害大国であり、昔から水害や地震、津波の被害が多発しています。年配の読者の方であれば、1977年に大きな話題となったテレビドラマ「岸辺のアルバム」で、多摩川の堤防決壊によって夢のマイホームが丸ごと流されていく鮮烈なラストシーンを覚えているはずです(このシーンには実際の報道映像が使用されました)。

台風19号が上陸した10月13日、長野県では千曲川の水位が上昇し堤防が決壊。雨で増水した水が流れ込み、広範囲で町や道路が冠水するなど大きな被害が出た。 写真:新華社/アフロ

こうした被害を防ぐため、旧建設省(現国土交通省)が中心となり、全国各地で堤防、治水ダム、砂防ダム(土砂災害を防ぐ)などが多数建設され、水害はだいぶ減りました。一方で、治水事業は最大の政治利権となり、各地で汚職が頻発。建設利権欲しさから、不必要なインフラが多数建設され、その莫大な維持費が日本の財政を圧迫しています。

 

こうした政治利権を一手に握っていた田中角栄元首相は、永田町にほど近い平河町にある「砂防会館」に派閥事務所を構えており、この場所は政治権力が集中する伏魔殿と呼ばれていました。当時、政治にちょっとでも興味のある人ならば、誰もが「砂防会館」という名前を耳にしたことがあるくらいでしたから、治水利権がいかに大きな権力だったのかが分かります。

賛否両論があった日本の治水事業ですが、水害防止に一定の効果があったのは紛れもない事実でしょう。しかし、日本の気候が大きく変わったことで、当時、推定された降水量をはるかに上回る大雨が多発し、現在のインフラでは十分に水害を防げない状況となりつつあります。

地球温暖化の影響についてはいろいろな意見がありますが、10年ほど前に、温暖化を前提に行われたシミュレーションでは、今回のような超大型台風の被害が続出するという予測が得られています。温暖化の根本的な原因はともかく、平均気温の上昇がこれまでにない規模の水害をもたらしているのは事実のようです。

そうなってくると、今後も超大型の台風がやってくる可能性は高く、日本のインフラはそれを想定していませんから、台風のたびに大きな被害が発生することが容易に想像できます。困ったことに、日本は不必要なインフラを各地に作り過ぎた結果、その維持だけでも莫大な費用がかかっており、新規のインフラ建設を大規模に進める余力がもはや残っていません。

財政破綻リスクを覚悟した上で大規模なインフラを新規に建設するのか、重要性が低い古いインフラについては維持を断念し、その資金を新規の建設に回すのか(その場合、該当地域の人たちの暮らしをどうするのかという問題が発生します)、現状のインフラ維持に専念し、災害発生後の対策を強化するのか、わたしたち日本人は厳しい判断を迫られそうです。

前回記事「ハザードマップではわからない“本当に安全な土地”の見極め方」はこちら>>

 
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