フードジャーナリストの小松宏子さんが、最新の食のトレンドを紹介します。 

手土産の定番はなんといってもスイーツ。けれど、年末ともなるとスイーツが重なってしまって余ってしまう。そんな贅沢な悩みもあったりするものです。そんなときに俄然、光るのが“サレ(塩味)”もの。
15年ほど前に、料理研究家の井上絵美さんのお取り寄せ本を編集していたときのこと、「塩味のものを手土産にできる女性って、大人って感じでカッコイイと思うのよね」とコメントされたのがとても印象的でした。
以来、甘いものが苦手な方や男性へのギフトにはもちろん、手土産を印象付けたいなら、“サレ”ものを、と思っています。

① 塩のお菓子の王道、ワインにも合う軽やかなパイ

 

いつ食べても、何度贈り物にいただいても、本当にうれしくて美味しい“サレ”の筆頭が、オーボンヴュータンの「プティ・フール・サレ」です。私も何回手土産にしたことか。

 

淡いピンクベージュにゴールドの格子の模様が入った缶の蓋を開けると、黒ごま、白ごま、グリュイエールチーズの3種のトッピングがたっぷりのった、棒状のパイがぎっしり。
口に入れると0.01mm(!?)ほどの厚さのパイの層が、はらはらと崩れる、なんとも軽やかな食感。それこそ止まらなくなります。上質なバターを惜しげなく使っていることと思いますが、必要以上にそれを感じさせることなくあくまで軽い仕上がりです。

 

河田勝彦シェフといえば、2012年に現代の名工も受賞した、日本のフランス菓子界の重鎮中の重鎮。1967年にフランスに渡り、9年ほど研鑽を重ね、帰国後1981年に尾山台に「オーボンヴュータン」をオープンしました。
フランス時代には、お菓子に関する古書を集めるのが趣味で、今でも寝る前に読むと落ち着くとおっしゃっています。

開店当初からのロングセラーである「プティ・フール・サレ」も、そうした王道を大切にした味わいです。美味しさの秘訣を伺っても、真摯にお菓子に向き合い、一つ一つ丁寧に手をかけて作るだけという答えが返ってくるのみ。
でもそんな頑固一徹な姿勢こそが、「オーボンヴュータン」の源なのでしょう。
日本では塩味であってもパイというとおやつのようなイメージがありますが、アペロ(夕食が始まる前、 軽くおつまみを食べながらお酒を飲むこと)の感覚で、食事前にワインやシャンパンとつまむのがとても粋です。

「オーボンヴュータン」
東京都世田谷区等々力2−1−3
※日本橋高島屋店もあり