「お仕事小説」というジャンルをご存知でしょうか。

ある業界や業種で働く人々にスポットを当て、そのお仕事の舞台裏や、思わず「へ〜」となってしまう制度などを紹介、さらに主人公の成長物語も楽しめてしまうというものです。

最近では多部未華子さんがカタブツの経理係を演じた『これは経費で落ちません!』が話題になっていましたが、これまでも出版社勤務の校閲者に焦点を当てた『校閲ガール』、辞書編集者のお仕事を描いた『舟を編む』、井上真央さんが国税の徴収官を演じた『トッカン』など、映像化されることが多いのもお仕事小説の特徴と言えるかもしれません。

そんな同ジャンルから、働く私たちにも密接な関わりのあるお仕事がフィーチャーされた作品を発見しました。

 

その名も『ひよっこ社労士のヒナコ』です。
「社労士」とは、給料の支払いや労務問題など、企業における「人材」問題を解決するスペシャリストのこと。主人公の新米社労士、朝倉雛子は新卒で就職できず、派遣社員として働きながらなんとか国家試験をパスし、社会人5年めにしてようやく社労士事務所に入社した苦労人。
そんなひよっこ社労士の雛子が、クライアントである企業の問題を解決していく……というのが大まかなストーリーです。

 

「退職理由を“自己都合”じゃなく“解雇”にして!」と、なぜか自分の不利になる方向に無茶ぶりしてくる元社員、バイトの社会保険料を払いたくない企業など、次から次へとやっかいな問題が雛子のもとに舞い込みます。なかでも、「育児休業なんてありえない」と、妊娠した社員を切ろうとする雇用主が登場する『カナリアは唄う』は、働き世代の全員に読んでほしい一篇でした。

また本作のミソは、雛子は労働者ではなく、あくまでクライアントである企業側に立たなければいけないという点です。
雛子がつい従業員やバイトに肩入れしようとすると、社労士事務所の所長や先輩たちがビシッと釘を差す。そんな理想だけでないリアルな社労士の現場とサスペンスフルな展開が合わさって、なんとも“タメになるエンタメ”でした。

労働時間の短縮・改善や雇用形態にかかわらない公平な待遇など、「働き方改革」によって私たちの労働環境に変化の兆しが見えています。
そしてなにより持続可能なワーク・ライフ・バランスをひとりひとりが考えることが今、必要なのかも知れません。
そんな端緒にもなる小説をぜひ手にとってみてはいかがでしょうか。

 

『ひよっこ社労士のヒナコ』(文春文庫)
著者:水生大海(文藝春秋/税込880円)

26歳の新米社労士、朝倉雛子がクライアント企業の労務問題に挑む!労働・社会保険問題から年金まで、企業の「人」に関する問題を引き受ける国家資格、社会保険労務士の仕事に焦点を当てたお仕事ミステリー。ちなみに著者の水生大海さんは元漫画家という経歴の持ち主。シリーズ第二弾『きみの正義は 社労士のヒナコ』も発売中です。

 

構成/小泉なつみ