女性誌を中心にフードライターとして活躍しつつ、実はフィギュアスケートの記事も担当している齋藤優子さん。羽生結弦選手や小塚崇彦さんにインタビューしたことも! グランプリシリーズ・ファイナルを終えて、「齋藤流フィギュア2019/2020総論」をお送りします!
イタリア・トリノで行われていたISUグランプリファイナル2019/2020が終わりました。
男女シングル合わせて6名のロシア選手が名を連ねたその顔ぶれを見ながら、“そういえば、ソチで行われたグランプリファイナル2012/2013は日本がそうだったよなぁ”と、ちょっと遠い目に。この時、日本からは、小塚崇彦、高橋大輔、羽生結弦、町田樹、浅田真央、鈴木明子という6名の選手が出場。
一方、ロシア勢はどうだったかといえば、ファイナルに進出したシングル選手は、エリザベータ・トゥクタミシェワ選手ただひとり(ユリア・リプニツカヤ選手も進出を決めたが、ケガのため出場取りやめ)。今回、表彰台を独占した女子シングルを観ながら、フィギュア王国ロシアの猛烈な加速ぶりを、改めて実感(まぁ、その昔もそうだったんですが)。
そのロシア勢VS紀平梨花選手、ネイサン・チェン選手VS羽生結弦選手の壮絶な高難度プログラム対決については、たくさん、たくさん報道されているので、ここではまた、別の話。元フィギュアスケーターの町田樹さんの言葉を借りれば、“after the rain”の輝きを見せた2人の選手について書いてみたい。
注目は覚醒したフランスのケヴィン・エイモズ選手、22歳
ひとりは、フランスの男子シングル選手として、2010-2011シーズンのフローラン・アモディオ選手以来のファイナル進出、そして2006-2007シーズンのブライアン・ジュベール選手以来の表彰台という快挙を成し遂げたケヴィン・エイモズ選手、22歳。
昨シーズンの世界選手権前の記事でも注目選手として触れたけれど、実は、その名が心に刻まれたのは、ジュニアグランプリシリーズ2016-2017、サン・ジュルヴェ大会でのフリープログラムでのこと。ショートプログラムで3位につけていたエイモズ選手は、ベンジャミン・クレメンタインのボーカル曲にのせて、まずまずの滑り出し。
が、後半、ジャンプミスが続いて、最後は気力、体力ともにヘロヘロ、なんとか滑り切ったという演技。結局、4位につけていた島田高志郎選手にかわされ、表彰台を逃してしまう。当時19歳でジュニア最後のシーズン、しかも、地元フランスでの大会とあって、ぜがひでも表彰台に乗りたかったのだろう。キスクラでスコアと順位が出るや、号泣。
手で顔を覆って、声をあげて泣く、泣、泣く。当時はまだ、キスクラで感情を爆発させる選手だとは認識しておらず、もとより、エモーショナルな演技が心に刺さっていたものだから、“こんな繊細なメンタルで、シニアにあがってやっていけるのかなぁ。諦めずに、頑張るんだよ~”と、日本からサン・ジュルヴェに心を飛ばしたものでした。
それが3年後、シニアのグランプリシリーズの地元フランス大会で念願の表彰台に上るや、なんとファイナルに進出。しかも、音響トラブルもなんのその、ファイナルでも表彰台に上り、今度は喜びを大爆発させようとは! あれから、どんな練習を、どれだけ積んできたんだろう。シニアにあがって、ヒゲを貯え、雰囲気がガラッと変わったのにも驚いたけど、今回の銅メダルはそれ以上のうれしい驚きでした。
ユニークな動きの連続で見せ場、満載!
エイモズ選手の演技がワクワクするのは、エモーショナルな表現に加え、“えっ、いまの何?”と思うような、ほかでは観られない動きのオンパレードだから。
シニアの舞台で経験を積むにつれ、さらに磨きがかかってきた。地上波の放送でも、解説の織田信成さんが“次の動きに注目です”とわざわざ紹介していたほど。背中を氷すれすれまで反らせて行うランジで魅せたかと思えば、今度は変形ランジをしながらバウンドしたり……。フィギュアスケート初心者が練習するバニーホップジャンプ(前に進みながら、ただジャンプして降りるだけ)でさえ、彼が行うと、なんだか特別な動きのように見えてしまうのだから、不思議。
そして、側宙からのフィニッシュポーズ、ですよ。今回の銅メダルで、ちょっと乙女な、表情豊かなキスクラとともに、多くのフィギュアスケートファンの心にしかと刻まれたのではないだろうか。
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