「お金のプロの方は、お金についてどんなふうに考えているの?どうつきあっているの?」というミモレ編集部の疑問から生まれたインタビュー企画。マネー業界のトップの方々に「お金の価値観」についてじっくり伺っていきます。
今回ご登場いただくのは、フィデリティ退職・投資教育研究所所長の野尻哲史さん。退職後に向けて、お金とどのように向き合ったらよいかを分析・アドバイスしている野尻さんに、マネーコラムニストの西山美紀と編集部の片岡がお話を伺いました。
<今回お話を伺ったのは……>
野尻哲史さん
大学卒業後、国内外の証券会社調査部を経て2006年からフィデリティ投信に勤務。2007年より、フィデリティ退職・投資教育研究所所長。各種アンケート調査をもとに投資家動向を分析し、資産運用に関する啓蒙活動を行う。『定年後のお金~寿命までに資産切れにならない方法』(講談社+α新書)『貯蓄ゼロから始める安心投資で安心生活』(明治書院)など著書多数。
――老後2000万円不足問題が出てから、将来のお金が不安だという人が多くいます。ただ不安がっているだけではなく、何か対策を打ちたいですが……。まず何から始めたらいいでしょうか?
野尻哲史さん(以下敬称略):定期的に収入のあるサラリーマンのような現役時代と、老後とでは大きく何が違うかというと、日々のお金の流れです。
現役時代は、勤労収入、つまり給料などから生活費をひいて、残りを資産形成にまわしますよね。
ところが退職後は、生活費として必要なお金をどうやりくりして捻出すればよいか、180度変えていく必要があるのです。
――老後は「自分が持っているお金」の中でどう生活していくか、ですね。
野尻:はい、老後の「自分が持っているお金」は、基本的には3つ考えられます。
「年金収入」、「勤労収入」、そして「資産収入」です。ここで、3つのステップで考えていきましょう。
1つ目は、老後は現役時代に比べて一般的に収入が減りますから、「生活費そのものを下げること」を考えてみます。つまり、生活のダウンサイジングです。次は定年退職後の「勤労収入」をどうやって確保するか。そして最後、3つ目は「資産収入」をどうやって作りあげられるか。この3つのステップで考えてみましょう。
――「資産を作りましょう」の前に、まずは「生活のダウンサイジングから」なのですね。
野尻:私は金額の話をする前に、まずは「どんな生活をしたいか」をイメージするのが大事だと思います。それでもし生活コストを下げられるのであれば、お金の心配は減りますから。
例えば、生活コストを下げるために「老後は地方に住みましょう」なんてことを提案しています。個人的には四国の松山がおすすめ。家賃は東京の4割ほどです。家賃が低ければ、老後の資産収入や勤労収入が少なくても大丈夫だということになります。
とはいえ、いきなり移住するには敷居が高いですから、今のうちに、地方都市のあちこち遊びにいくのもいいと思います。
――実際に行ってみないと、気に入る場所があるかどうかもわからないですもんね。
野尻:はい。とはいっても、地方移住は基本的に男性は乗り気ですが、女性は「東京のままがいい」という方が多いですね(笑)。でも、実際旅行で行ってみると気に入る都市が出てくるかもしれませんよ。
――そのうえで、東京にずっと住み続けたいということになれば……。
野尻:東京は家賃が高いですから、他のことでお金をカバーする必要があります。そこで「じゃあいつまで働こうか」という勤労収入と、「資産を作っていかないとね」という資産収入について考えることになるんです。
勤労収入であれば、老後どれくらいまで働くのか、どんな働き方をするのかと考えていきます。資産形成であれば、今からコツコツと老後に向けて貯めていこうか、さらに運用もしていこうかという話になります。
――老後のイメージをしたうえであれば、お金についても具体的に考えやすいですね。
野尻:はい。「生活コストについて」、「勤労収入について」、「資産形成について」という順番で考えるとスムーズだと思います。
もちろん、「資産形成をしよう」という話が先にきても問題ありません。この3つをすべて考えたうえで、行動につなげていけばいいからです。
みなさんは漠然と老後が不安だと思っていますよね。それは当然のことです。
不安だからこそ、対策を考える必要があります。ただし、その対策は資産運用だけでなくていいですよとお伝えしたいです。いろいろ考えたうえで、結論が資産運用ということもあるでしょう。
ぜひ、老後の「生活コスト」「勤労収入」と、老後に向けた「資産形成」の3つについて、考えてみてください。
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