今春発売された、各界の著名人8人との対談集『私がオバさんになったよ』が話題になったジェーン・スーさん。大人になれば、自分でも気付かないうちにあれこれ背負い込んでいるもの。そんな肩と心を、ふっと軽くしてくれる名言が満載の一冊です。今回のインタビューでは本のお話から、ジェーンさんからみた“今”、そして心を軽くするコツまでたっぷりお話しいただきました。

(この記事は2019年7月5日に掲載されたものです)

【ジェーン・スーさん】その辛さはあなたのせいじゃない。悩みを生む“システム”とは_img0
 

ジェーン・スー コラムニスト、ラジオパーソナリティ、作詞家、プロデューサー。東京都生まれ。2013年発表の初の書籍『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』(ポプラ社)がたちまちベストセラーに。さらに第二作『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(2014年、幻冬舎)で第31回講談社エッセイ賞を受賞。現在は新聞や雑誌で多数の連載を持つほか、ラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」(TBSラジオ、月~金11:00~)でメインパーソナリティーも務める。6月には脳科学者・中野信子氏との共著『女に生まれてモヤってる!』(小学館)も発売に。


今って、はみだしちゃいけない空気がある


『私がオバさんになったよ』。まだ読んでいない方は、このタイトルからどんなエピソードを想像されるでしょうか。年齢、家事や仕事、恋愛に結婚、etc,……。それだけではありません。東京V.S.地方の構造や男性学と話題は多岐にわたり、女性たちの悩みとなりえる要素がすべて網羅されている、といっても過言ではない内容になっています。

「特にそうするつもりはなかったんですけどね。この本は『小説幻冬』での連載をまとめたものですが、連載中も基本、次どなたにお話を聞くかも、話すテーマもその時の流れにまかせていて。会いたい人に会いに行ったらこうなった、という感じです。ただ、私の友人がこの本を読んで『私が知りたいことが全部書いてあった、ありがとう』と言ってくれて。これは嬉しい感想でしたね」

そしてタイトル。『私がオバさんになったよ』の一文だけで心をわしづかみにされてしまった方も多いと思いますが、同じく女性の心に突き刺さるタイトルといえば2014年のエッセイ『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(じつは今回の『私がオバさんになったよ』と、担当編集さんが同じという共通点も)。世の大人の女性をギクッと、そしてスカッとさせた衝撃から5年。この間を振りかえった時、ジェーンさんが感じる世の中の変化とはなんでしょうか。

「世間からはみだすと大変なことになる、と警戒する空気は、年々強くなっているように感じます。例えば、バイトテロと呼ばれるような不適切動画の問題。ああいう度を越えた悪ふざけは決して許されることではないけれど、SNSのせいで見ず知らずの人からも徹底的に叩かれる構造ができてしまい、ちょっと厳しいなと思います。小さな事件はすぐ忘れさられるという特性もありますが、少しでも間違えると人生詰んじゃう、みたいなプレッシャーはありますよね。

だからでしょうか、早く“正解”を知らないとマズイ、という漠とした焦りをいろいろな人から感じます。未来予想図も世間のジャッジもどんどん厳しくなっていて、もはや自分の頭で考えただけでは正解がわからない、という状況なんだと思います。はみ出すこと、自分だけ置いていかれることへの恐怖感は、大人になったからってなくなるものでもないですしね」

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世の中が“悩ませる”システムになっている


日常のほんの些細なことでさえ、人と比べたり、正解を第三者へ求めてしまう。そうした風潮の原因は、SNSのほかにもあるといいます。

「今のWeb記事って、〈男性に嫌われるデート中のしぐさ3つ〉とか〈部下に嫌われる上司の特徴〉みたいな、“あなたは大丈夫?”って問うような切り口が多いじゃないですか。そうやって何気なく目にした情報から不安を煽られている部分は大きいと思いますね。

昔なら煽ってくるのは雑誌や広告が多くて、ある程度は自分で距離を取ったり取捨選択できたけれど、今は全部スマホを通してでしょう。ほぼ自分の分身のような存在から“それで大丈夫?”って言われると、距離が近いだけに焦りも大きくなるだろうし、どれだけ見ないようにしたってその隙を突いてくるシステムが出来上がっている。だから逆に言うと、いつまでも悩みは尽きないとか自分にOKを出せないというのは、もう仕方のないこと。今の社会がそういうシステムになっている、ということなんですよね」

よりよくありたいと願うほど、新しい悩みが増えてしまう……。そんな負のループから抜け出す方法はないのでしょうか。

「これは趣味というか嗜好ですが、私は“システム”を見つけるのがすごく好きなんです。『私が~』にも書いた光浦靖子さんとのやり取りに〈20代の体力が今あったら天下取れてる〉というのがあって。イベントでこの話をすると、毎回地鳴りのような笑いが起きるんですよ(笑)。みなさん、何か感じるところがあるんでしょうね。

若い頃はなんでも効率悪かったけど体力はあった。今は効率よくなったけどその分体力がない。これってかけ算でいったら能力1×体力4が能力4×体力1になっただけで、総生産高は昔も今もそんなに変わんないシステムなんだよ、と(笑)。仕上がりの質はむしろ今のほうがいいかもしれない。そういう、“自分のせいじゃない”と言える構造を見つけるのが楽しいんです」

 
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