エッセイの名手として知られる小島慶子さん。『AERA』『週刊プレイボーイ』『with』など連載媒体は多数ですが、この度、2013年から始まった『日経DUAL』での連載が一冊の本になりました。その名もずばり、『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(吹き出しのデザインで「パパもね!」とアリ)。
鮮やかな装丁を「目の覚めるような鮭色の本でしょ」とユーモラスに紹介してくれた小島さんに、子育て後の人生、そして「エア離婚した」という新たな夫婦関係について聞きました。
*こちらは「2020年人気インタビュー20選」です。元記事は2020年1月7日に配信しました。
夫の裏切り、彼に浴びせてしまった暴言……率直な告白の数々
夫の退職を機に“大黒柱母さん”となり、2014年に一家で小島さんの生まれ故郷・オーストラリアへ移住。激動の6年間で綴られたエッセイは、驚くほど率直です。
産後クライシスの最中に夫に裏切られたこと。そんな彼に「年収0のあなたをどうやって尊敬すればいいのよ!」と暴言を吐いてしまったこと……。ともすれば文字にするのも負担を伴いそうな夫婦の危機を細部まで描かれていますが、さらけ出す怖さ、みたいなものはなかったのでしょうか。
「自分の人生に起こることが特別なことだと思ってないんですよ。だからもし同じようなことで心を痛めている人がいたとしたら、私の実人生をサンプルに『こんなことって、皆もあるよね?』と書くことで、『私だけじゃなかったんだ!』とか、『俺も同じだー』と思ってくれたらいいなって思ってるんです。
ここで書いたものは堅いジャーナリズムではないけど、もともと学生の時に記者志望だったこともあって、自分にとってはジャーナルであり、ルポなんです」
40歳過ぎに診断されたADHDを連載で発表したのも、身の回りで頻発するようになった「ある体験」が、社会全体に蔓延することへの危惧から生まれたと言います。
「発達障害という言葉が認知されてきたと同時に、周りの親しい人の中で『同じクラスに困った子がいてさあ。きっと発達障害だよねー』とか、『俺、ちょっと発達障害入ってからさー(ドヤ顔)』みたいに、雑な扱い方をする人が増えてきたんです。
偏った知識のせいで偏見が生まれるなら、私もそうだよと、自分のADHDのことを語ってみようかなと思ったんです。発達障害と一言で言っても、人の数だけ事情や困りごとがあることを知ってほしいですし、一括りの“障害者”ではなく、相手を一人の人間として見てほしいと思っています。
そしてこうして書くことによって、自分の抱えているものを安心して吐露できる場所を作る。それは我々子育て世代がやっていこうよと、読者の方にも伝えたかったんです。
たとえば『うちの子だけはロクでもない世の中から守ってあげたいから、幼稚園から大学まで有名私立の一貫校に入れます』といって温室で育てても、子どもは最終的にいろいろな人がいる世の中に出ていきますよね。そしたら、そのいろんな人たちと生きていくことを前提にして教育した方がいいはず。だから我々子育て世代は、我が子を守ることだけでなく、世の中全体を良くする活動にもコミットした方がいいよね、と思ってるんです」
本書もこんなハッとするような提言に溢れつつ、がむしゃらに一日一日を乗り越える我々をハグしてくれるような温かさもあって、働き世代なら目頭が熱くなるはずです。
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