『姑獲鳥の夏』や『魍魎の匣』で知られる直木賞作家の京極夏彦さんが昨年、10代の聴講生を前に「言葉」をテーマにした講演を行いました。
「SNSは炎上しないわけがない」といった興味深い内容が盛りだくさんだった本講演をまとめた書籍『地獄の楽しみ方』から、人生を楽しく生きるための「語彙」の力についてお伝えします。
言葉は欠損している
「言葉によるコミュニケーションは、情報をやりとりするだけではないんです。
この世界はそのままでは実に混沌としています。言葉は、その混沌(カオス)を秩序(コスモス)に変える力を持っていました。言葉によって、私たちは頭の中を整理整頓することができるようになったんです」
こう語った京極夏彦先生は、「言葉」を人類最大の発明としながらも、人間間の意思の伝達については、「話したってわかりゃしません」と続けます。
「気持ちを人に伝えるためには、言葉にしなきゃいけないですね。言葉にする時に、とりあえず何か言わなきゃ通じないから、『私は悲しかった』と言っちゃうんです。その時、悔しい気持ちや、ちょっと面白かったとかいう気持ちは全部捨てられてしまいます。言葉はこの世にあるものの何万分の一、いや、何百万分の一ぐらいしか表現できないものなんです」
気持ちを言葉にした瞬間、選びとった言葉“以外”の感情がなきものと化してしまう……。自分の気持をわかってもらおうと思って言葉を選んでも、結局は不完全な表現しかできないなんて、痛し痒しすぎます。
そのように「言葉は欠損している」がゆえに、言葉を受け取った側も欠けた部分をオートマチックに補っていると京極先生は説明します。
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