「トイレ」にワクワクして社会活動家へ
ビジネスマンとして成功を収めていたシムさんでしたが、不況の煽りを受け、所有していた不動産の価値は半減。自分が汗水たらして働き、手に入れたと思っていたものの儚さを思い知ります。
そうして40歳になって残りの自分の人生を考えた時、お金ではなく「時間」の価値を痛感した彼は、貴重な時間を使うに値する行為として「社会貢献」に思い至ります。
そんな時、たまたまテレビで政治家がシンガポールの「トイレ文化」の低さに言及しているシーンを目撃。トイレに特別興味があったわけではなかったそうですが、その言葉を聞いた瞬間、「昔のいたずら坊主だった時の感覚が戻ってくる」ような、そんなワクワクが抑えきれなかったそう。
シムさんは早速、シンガポール国内にトイレの協会を設立。国内の学校を行脚し、トイレの伝道師として活動を開始します。
「トイレが臭くて汚くて、行きたくない場所だったら、生徒たちはなるべくトイレに行かないように我慢し続けるだろう。これは明らかに学習の妨げになる。生徒の成績が芳しくないと、学校、いや校長先生の名誉にもかかわるかもしれない」
こんな見事なセールストークで様々な業界に呼びかけた結果、「世界トイレ大学」がシンガポールに設立されるまでに至るのです。
そもそも安全で清潔なトイレを設置することは、公衆衛生で命を落とす危険をなくし、女性をレイプ被害から守る効果もあり、まさにいいことづくし。
……にも関わらず、衛生的なトイレが世界に広まらない理由は、国による「トイレ文化」の違いが原因なんだそう。
たとえば貧困地域にはたくさんの移動式トイレが導入されていますが、それらは容量が小さいため、すぐに満杯になってしまいます。
普通に考えると汲み取って処理すれば半永久的に使えると思うのですが、その土地にトイレ文化がないおかげで、満杯になったトイレはそのまま放置され、結局、スラムの人々は野外で用を足す生活に逆戻りしてしまうといいます。
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