「巻き込み力」でチームの団結力を強める

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奥村:PRは、〝繋げる〟のが仕事。本のパブリシティが成功するには、私の力だけでなく、編集と営業を繋げ、出版社とメディアを繋げることで、売りたい本をメディアに露出していただく必要があります。同じ出版社に勤めていても、編集は「いい本が出来たからメディアに出して行こう」と盛り上がっているのに営業は高みの見物、というように、連携が取れていないケースが実は多い。関係者全員に「この本をメディアに露出して売る」という同じベクトルを向いてもらうためには、周りの人を巻き込んで、ひとつのチームなんだという認識を持っていただくのがいちばん。

 

そのために最も簡単な方法は、「自分が今、何に困っていて何を必要としているか」をメンバーに相談すること。そうすると相談した相手は、より、「自分ごと」として受け止め、率先して動いてくださるようになり、円滑な連携プレイができるようになるんです。

あとは、フェイスブックのメッセンジャーで仕事の案件ごとにグループを作って、チーム全員ですべての情報共有をするようにしています。メールよりも過去に送られたメッセージを遡ることが楽ですし、誰が既読になったかどうか一目でわかるので使い勝手がいい。1日にメールがたくさん送られてくるような忙しい方だと、メールを読み飛ばしてしまう可能性もありますが、メッセンジャーだとそれがないのも安心です。


断られて当然だと心得る


奥村:毎日200冊もの本が新たに出版される中、1冊の本をテレビ局や雑誌の編集部に売り込む。それには「なぜこの本をうちの番組が紹介しなければならないのか?」という質問に対して、説得力のある話ができないといけないですし、正直、断られる数の方が多いです。

だけど恋愛と一緒で、大事なのは相手とのフィーリングが合うかどうか。万人に受けなくてもいいから、目の前に居るたったひとりの担当者の方に、その本に対する熱い想いが伝わればいい。とにかくいろんな方に声をかけて、少しでも興味を持ってくれたらすかさず売り込む。そこで断られて心折れているようでは、パブリシティという職業には向きません。

そして口説き落とすためには、こちらの魅力をアピールするだけでなく、相手の情報もきちんと知っているというのが大前提。たとえば売り込みに行った雑誌の編集者に、「明らかにうちの媒体を読んだことがないな」と思われてしまったら、いい結果は生まれませんよね。相手側のリサーチは徹底的にしてから売り込むのが礼儀。

その上で、面白い番組や雑誌を作るために、こちらがどんな協力ができるのか、「こんな絵も取れますよ」、「こんな取材もご協力できますよ」と、アイデアを提案して行きます。図々しさと、断られてもめげない心は、PRにとって必須能力なのです。
 

売り込むときは電話営業のアナログ派


奥村:私が売り込むメディアの方たちは、プライベートでも交流がある方がほとんど。それは普段から、仕事に繋がるかどうかは関係なく、アンテナを張って面白そうなことには顔を突っ込んでいたら自然に派生した人脈です。そしてその方たちに売り込みたい本があるときは、メールでいきなり企画書を送ったりするのではなく、まず電話をかける。

例えば、認知症予防の本を担当したときのこと。電話の最初のお互いの近況報告のときに、「最近私、物忘れがひどくて」という話をしておく。相手が「実は私も『あれ、なんだっけ』って思い出せないことが増えて…」と答えたら、掴みはOK。

そのあと、話が本題に入ったら、「さっき物忘れの話をしてたけど、去年リンダ・グラットンの『ライフ・シフト 100年時代の戦略という本が売れたけど、人生100年時代に70くらいでボケたら困りますよね』と、そのときの旬の話題に結びつけて話します。そして、「実は今、認知症専門医の有名な先生がお書きになった作品を担当しているんです。その中で、さっきの『あれ、なんだっけ』は危険なシグナルだと書いていて、実際ボケないためにはどうすればいいかを紹介してるんですよ」と話しを繋げる。相手が興味を示したら、「実はこれから春先のシーズンになると脳は不安定になって物忘れも多くなるんですよ」とか、「脳の危険度を測るテストはテレビ用にも作れます」とか、「ボケ防止にこんな体操があって映像向きです」などなど、本の紹介だけでなく、相手が企画にしやすいように、具体的なアイデアの提案をするようにします。

電話ですと、声のトーンで向こうの反応が探りやすいので、様子をみながらPRの戦略を立てやすいのも利点。今の時代にアナログなやり方だと思われるかもしれませんが、パブリシティの仕事はコミュニケーションがすべて。電話は最も適した営業ツールだと私は思っています。
 

書籍PRという仕事の醍醐味とは?

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奥村:自分が好きだと思える作品をメディアで広めることで、どこかの誰かがその本を読んで、その本の素敵さを、また別の人々に伝えて行く。そしてその輪がどんどん広がって行く。ーそれができるのが、この仕事の醍醐味です。私自身、学生時代いじめにあっていたときや、離婚して落ち込んでいたときに助けられたのも本でした。今、出版業界が不況だと言われるけど、「じゃあどうすれば売れるの?」って考えたときに、「本を読むとこんなに楽しいことがあるよ」ということを伝えて、ひとりでも多くの人に、いい本と出会うきっかけを作れたら。その想いが、私のモチベーションになっています。

そして担当書籍がドカンとヒットした時には、なんというか…、万馬券が当たったときのような気持ち良さがあって、アドレナリンが出ちゃう。だからこの仕事は、辞められないんですよ(笑)。

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<書籍紹介>
『進む、書籍PR!』
著 奥村知花 PHP刊 ¥1400(税別)


日本初の「書籍PR」として活躍する第一人者の奥村さんが、ベストセラーを生み出す書籍のパブリシティの仕事術やノウハウを、惜しみなく伝授。これから書籍PRを目指す人だけでなく、すべての働く人の参考になる、仕事のヒントがいっぱい。

撮影/ 横山 翔平
取材・文/さかいもゆる
 
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