昨年末に史上最年少の女性首相が誕生したフィンランド。女性が、それも34歳の若さで国のトップになったことは、世界中で話題をさらいました。

今回お話を伺ったのは、その国で5年間を過ごし、現在はフィンランド大使館の広報を担当される堀内都喜子さん。著書『フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか』は、そのタイトル通り午後4時に終わり、一ヶ月の夏休みを過ごすフィンランドの暮らしや、働き方について書かれた本。女性だって、もっと働きたいし、もっと休みたいーー日本人が憧れるワークライフバランス実現の裏には、どんな考え方があるのでしょうか?

 

堀内都喜子 長野県生まれ。大学卒業後、日本語教師等を経て、フィンランド・ユヴァスキュラ大学大学院に留学。異文化コミュニケーションを学び、修士号を取得。フィンランド大使館広報部に勤務しつつ、フリーライターとしても活動中。

 

フィンランドに行って自分の年齢や性別を意識しなくなった


大学時代の交換留学で行った中国で、同じ寮に住むフィンランド人と友人になった堀内さん。初めて訪れた北欧は、美しい夏の季節。サウナに呼ばれ、湖に飛び込み、森でブルーベリーを摘み、「フィンランドでは、夏休みは一ヶ月」という驚きの事実を知ります。その後、当地の大学院に留学し過ごした5年間で、最も変わったのは「年齢や性別というものを、どんどん気にしなくなっていったこと」。

「私の実家は長野の田舎街で自営業をしていました。フィンランドに行く以前は、学校を卒業したら就職し、30歳くらいまでにお婿さんをとって家業を継ぎ……と、小さい頃から親に言われてきたままの人生をイメージしていたんです。だから留学した自分に、少し罪悪感があったんですよね。友達の中には『20歳半ばを過ぎてまだ働いていないの?』という厳しい人もいたし(笑)」

フィンランドでは、女性が家庭もキャリアも持つのは至って普通のことだし、他人の結婚や年齢について物申してくる人もあまりいません。「年齢や性別に限らず、やりたいことがあるなら勉強すればいい」という感覚も当たり前で、大学には20代から50代まで幅広い年齢層の生徒がいたそうです。

「“女性だから”“何歳だから”という考えは一気に吹っ飛びました。自分に対しても、他人に対しても、『決められたレールを外れて生きてもいいんじゃない?』と思えるようになりましたね」

東京に戻ったのは、フィンランド系企業の日本支社で「働かないか」と声をかけられたから。ところが、外資系とはいえ日本人が99%の会社で、その文化の違いには衝撃を受けたといいます。

「エンジニアリング系の会社で男性社員が多く、“女性はアシスタント”という感覚があって。私はマーケティングの職で入ったのですが、何か意見を言うと『え?アシスタントが?』みたいな空気になるんですよ。アシスタント、アシスタントと言われ続けていると、そのうちにこちらも“でしゃばっちゃいけない”という気がしてくるし。

年配の男性社員と一緒に出張に行った翌朝、『夜はどうだったの~?』と言われたり、クライアントの担当者に『何歳?』『結婚してるの?』なんて聞かれたりしたことも。みなさん悪気はないんですよ、でも最初は本当に悩みましたね」

ちなみに、堀内さんは今の職場で、自身の家族構成などを尋ねられたことすらないそうです。もちろんそういう話題になって自分から触れることはありますが、それ以上に踏み込まれることはありません。

 



“スルー”されない社内レクリエーション


著書に書かれているフィンランドの会社文化で面白いなと思ったのは、なんだか「昭和の日本」にどこか似ていることです。例えば勤務時間中に始まるエクササイズは、古式ゆかしいラジオ体操の時間のようだし、社員が仕切るボーリング大会などのレクリエーションや、サウナでの裸の付き合いも、似た匂いがするような……。日本では平成の頃には「苦痛」になったこうした会社文化が、フィンランドではなぜ機能しているのでしょうか。

「社内の様々な関係性がオープンで対等で、同時に個人の意思が尊重されているからでしょうか。フィンランドの会社の上司と部下の関係は、上下関係ではなく、基本的に対等なんです。普段からある程度、言いたいことを言い合えるし、上が命令し下は従うのみという関係ではないから、一緒に過ごすことが苦痛じゃないんですよね。交流はプライベートを邪魔しないよう“夜の飲み会”でなく、ランチやコーヒーブレイクなどの勤務時間内。レクリエーションも休日でなく、勤務日にやります。もちろん、どれも参加したくなければしなくても構わないし、それをとやかく言われることもありません。本当の意味で、本人の意思で決められるのがいいんでしょうね」


仕事の「効率」に関する考え方も随分違うようです。


「日本では「長時間労働=仕事をやっている」という見方もあるようですが、「効率的に働くには心身の健康が最重要」と考えるフィンランドでは「長時間労働=非効率的」。上司が唯一部下を管理しているとすれば、それは彼らの心身の健康に気を配ること。そうでないとサステナブルに働くことなんてできないし、環境が悪ければフィンランド人はさっさと辞めてしまうので、いい人材を確保できません」

こうしたワークライフバランスの考え方は、あらゆる業種、職種に徹底されています。そうはいってもお医者さんは、そうはいっても学校の先生は、という例外はありません。

「もちろん不便なこともありますよ。でもスーパーが日曜休業と分かっていたら、それ以外の日に買えばいいし、医療従事者も夏休みを取るのだから、緊急以外の検診などはそれ以外の季節に予約すればいい。日本のように「いつでも、どこでも、なんでも」という生活は便利ですが、そこまで便利じゃなくても生きていけますから。自分だってゆっくりお休みをとりたいのだから、そこはお互い様と思わないと」

 
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