編集者からのスカウトは詐欺だと思いました(笑)


同人誌を始めたのは漫画を描きたいという理由ではなく、当時、友人の漫画家である三原順さんが亡くなったばかりで、彼女の作品を埋もれさせないために、同人誌でその軌跡や作品を紹介したいと思ったんです。
そんな中で、私が元漫画家と知った周りの方々が「どんなの描いてたの?」とか「作品を読んでみたい」と言ってくださって。ならばと、自分の昔の作品の再録と一緒に、アシスタント時代の思い出を短いエッセイコミックにして同人誌で発表しました。
そんなこんなで20年くらい同人誌活動を続けていたら、「書籍化のご相談」というメールが出版社の方から届いたんです。正直、詐欺かと思いました(笑)。

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くらもちふさこさんとの思い出を綴った一コマ。それにしても、出てくるお名前がいちいち大御所で驚きます……!


家庭での辛い時間も、同人誌活動が救いに


――美内すずえ先生の『ガラスの仮面』や山岸凉子先生の『天人唐草』といった名作の現場に携わった様子が描かれていましたが、今回、アシスタント時代の思い出を発表するにあたり、各先生にご連絡をされたそうですね。

 

くらもちふさこさんは同い年のお友達ということもあって「いいよー」とすぐOKをくれました。美内すずえ先生は、先生が当時、修羅場の眠気覚ましにしてくれる怖い話のエピソードを描いたんですが、「あそこはゴキブリじゃなくカブトムシ」とか、「あの怖い話は赤いスカートじゃなくてピンクのワンピースよ」と、詳しくアドバイスをくださいました(笑)。

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美内先生のお人柄が伝わる感動エピソードも。

美内先生とは私が引退して子育て中は交流が途絶えていましたが、子育てが落ち着いて同人誌を作り出してからまたご連絡をしはじめて、最近ではもっぱらTwitterのDMでやりとりしています。
 

――笹生さんのお話をお聞きして、子育て後の人生が楽しみになりました。

実は、同人誌を作っていた時は子供から手が離れつつありましたが、身内の看病をしなくてはならず、だいぶ辛い思いをしてたんです。

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笹生さんが手掛けた同人誌の一冊。三原順作品への愛が詰まっています。

そんな時、たまたま三原順さんの本を作ることになって、それがすごく救いになったんです。時間を捻出するのは相当大変でしたが、家庭とは違う世界があるということが、辛い日常から逃れられる時間にもなった。
そうして活動を続けていくことで同人誌を楽しみにしてくださる方も増えて、最終的にはこんなことになりました(笑)。
先ほどママさんバレーやダンスのインストラクターを始めたお母さんの話をしましたが、ライフステージが変わっても、好きなものを捨てる必要はないんですよね。
今日着てきた着物は母のお古で、50年ほど前の物です。いくら古くたって、自分の好きなものは忘れたり捨てたりしたくない。それは大好きな昔の少女漫画も同じで、着物も漫画も、自分が「良い!」と思ったものは未来にも伝えていきたい思いが凄く強いんです。
今回描いた70年代の漫画制作現場は、健康面はメチャクチャで絶対に真似しちゃだめですけど、それも含めてあの“シュラバ”を体験した者として、名作が生まれる瞬間を記録しておきたかったんです。
 

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『薔薇はシュラバで生まれる-70年代少女漫画アシスタント奮闘記-』
著者:笹生那実(イースト・プレス/税込1200円)


美内すずえ、くらもちふさこ、山岸凉子ら、少女漫画の名作を生み出したレジェンドたちのもとでアシスタントをした筆者が、当時の貴重な体験を綴ったコミックエッセイ。あの名作、名シーンのまさに“裏側”がここに!


撮影/水野昭子
構成/小泉なつみ
 
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