1月からTBS系で放送中のドラマ「テセウスの船」。竹内涼真さん主演の本格クライム・サスペンスで、回を重ねるごとにSNS上で犯人探しが盛り上がっています。こちらは2019年6月まで「モーニング」で連載されていた同名漫画が原作で、ドラマが話題を集めるにつれ、物語の展開が気になって全10巻の単行本を買い求める人も増えています。そのため、品切れになる書店も続出! 時空を超えて謎が謎を呼ぶストーリーについてご紹介いたします。


タイトル「テセウスの船」が示す「私が私たりえるもの」とは?


作品のタイトルになっている「テセウスの船」とは、古くから言われているパラドックス(矛盾、逆説のこと。または、一見正しく見えるが正しいと認められない説を指す)の一つ。その昔、クレタ島から帰還した英雄・テセウスの船の修復作業が行われました。古くなって朽ちた部品を新しい部品に置き換えていくうちに、当初の部品はすべてなくなってしまいました。この時、この船はもとの船と同じといえるのか? というものです。

 

実は人間についても同じことが言えます。人の体の中では毎日3000億個の細胞が死に、生まれ変わっています。数ヶ月もすればほとんどの細胞が入れ替わることになりますが、だからといって別人ということにはなりません。そうは言うものの、「私が私たりえるものは何なのか?」ということを考えると、とても心もとない気持ちになります。

 

物語の主人公は田村心という青年で、由紀という臨月の妻がいます。愛する妻がいて、新たな家族が誕生する直前で幸せなはずなのに、心にはどうしても拭い去れない過去が楔のように打ち込まれています。それは、警察官だった父・佐野文吾が1989年に北海道・音臼(おとうす)小学校で起きた、21人無差別毒殺事件の犯人として逮捕され、今も札幌の拘置所で身柄を勾留されているという事実。

事件当時、心は母親のお腹の中にいて、生まれた頃には父は逮捕されていました。そして、物心つく頃には死刑判決がでていました。文吾が逮捕されて以来、母親は子どもを連れて身を隠さざるを得ず、周囲に事件のことがばれるたびに転居を繰り返しつつ、女手一つで必死になって長女、長男、次男の心を育ててきました。

心にとっては見ず知らずの父親のせいで、なんでこんなひどい目に遭わなくてはならないのかと憤りつつ、自らが「加害者の息子」ということを知られないよう、ひっそりと生き続けてきました。そんな中、ようやくつかんだ妻・由紀との穏やかな生活でしたが、由紀は出産時に生まれたばかりの赤ちゃんを残して命を落としてしまいます。さらに追い打ちをかけるように、心が犯罪者の息子ということで、結婚を反対していた義父に、「こんな環境に孫を置いておけない! 孫を引き取らせてもらう」と言われ、絶望的な気持ちに。

生まれてきた娘のために、過去を変えることはできなくても、今まで逃げ続けてきた過去と向き合おうと決めた心は、北海道で勾留され、今も無実を訴え続けている父に会うことを決意します。その後押しになったのは、生前の由紀が無差別殺人事件の前に、音臼村で起きていた不可解な事件の数々を調べており、「もしかしたら冤罪ではないか?」というかすかな期待でした。もし冤罪であれば、心も生まれてきた子どもも犯罪者の家族ではなくなるからです。

拘置所にいる父に会う前に北海道・音臼村を訪れた心ですが、突然濃い霧に覆われます。視界が遮られる中、進んだ先には既に取り壊されているはずの音臼小学校がありました。そこは事件半年前の音臼村で、心はタイムスリップしてきたのです――。


過去を変えると未来が変わる「タイムパラドックス」


タイムスリップものはこれまでにも数多くの小説や漫画、映画などに登場してきました。そして、過去に存在しなかったはずの登場人物が現れることで、過去の出来事が改変され、未来が変わってしまうという「タイムパラドックス」も数多く描かれてきました。

心は無差別殺人事件の前に、村で頻発する不可解な事件を前に、なんとか惨事を防ごうと自分が怪しまれることを承知で必死に奔走します。その過程で父である警察官の佐野文吾とその家族にも出会います。そこで、事件前の佐野家は笑顔の絶えない、明るくて仲良しの家族であったことも知ります。

物語に登場する村の人たちは、誰が犯人であってもおかしくありません。むしろみんなが怪しく見えます。また、心のことを不審がりつつも、家に泊めてくれた父・文吾もまた、犯人の可能性があります。この物語が多くの人を惹きつけるのは、単なるミステリーやサスペンスにとどまらず、家族の絆やタイムスリップした心の行動が未来にどう影響を及ぼすか、といった要素がたくさん詰まっているところにあります。


ドラマのこの先は……再び現代に戻ると衝撃の世界に


ドラマでは既にオンエア済なので、少し先の話をすると、心は再び現代に戻ってきます。そして、そこで自分がタイムスリップ前にいた世界とは異なる、「タイムパラドックス」を目の当たりにして衝撃を受けます。自分をとりまく環境が激変しており、存在しているはずの人がいなかったり、全く別の人生を生きていたりしているからです。

心が過去の悲惨な事件をなんとか食い止め、父を犯罪者にしないように奔走すればするほど過去は変わり、未来も変わっていく危険性があります。それでも心は、目の前の出来事に必死で向き合おうとします。

心は物心つく頃から、「犯罪者の息子」であることを隠し、被害者の家族に顔向けができないからと笑うことも許されずに、息を殺すようにじっと生きてきました。だからこそ人一倍、今度こそ後悔のないように全力でぶつかっているのでしょう。

その真摯な姿に心を打たれると同時に、その時の行動が未来にどう影響を及ぼすのかを心配せずにはいられません。そしてその先にはどんな結果が待ち構えているのか? それでも心は心たりえるのか? もっと詳しくご紹介したいところではありますが、どう転んでもネタバレになってしまうため、漫画を読んでご自分の目で確かめてもらうしかありません。

漫画は完結しており、しかも10巻というお手頃なボリューム。最後まで読めば結末がわかりますが、どうやらドラマは漫画とは異なる結末になるという噂もあります。今なら漫画を一気読みして、追っかけでドラマを見て、「テセウスの船」というパラドックスの世界をさらに重層的に楽しむことができます。今私に言えることは、「今すぐ全巻読むべし!」ということです。

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『テセウスの船(1)』

著者 東元俊哉 講談社

1989年6月24日、北海道・音臼村の小学校で、児童16人を含む21人が青酸カリで毒殺された。逮捕されたのは、村の警察官だった佐野文吾。28年後、佐野の息子・田村心は、死刑判決を受けてなお一貫して無罪を主張する父親に冤罪の可能性を感じ、独自に調査を始める。事件現場を訪れた心は、突如発生した濃霧に包まれ、気付くと1989年にタイムスリップしていた。時空を超えて「真実」と対峙する、本格クライムサスペンス、開幕。