【向井理さん】夢でうなされるほど恐ろしい。それでも僕が舞台に挑み続ける理由_img0
 

高揚と後悔を繰り返しながら、緊張ともポジティブに付き合えるようになってきたそう。

「一生懸命やってきたからこそ、稽古でやってきたものをしっかり出せるのか不安になるんだと思うんです。『なんとかなる』という気持ちでやっていたら、プレッシャーも感じないはず。なので、『今回も緊張できているな』と、緊張しているピュアな自分を前向きに捉えることにしたんです」

以前、『悼む人』で共演した手塚とおるさんが贈ってくれた写真集『THE HALF』も、緊張をほぐしてくれる大切な存在。そこには、ロンドンの劇場の楽屋で過ごす、開演30分前の役者たちの姿が25年分収められています。

「瞳孔を開いて必死にメイクをしている人、鏡をじっと見つめている人……。同業者に『緊張するのは、みんな同じ。お前だけじゃないんだよ』って言ってもらえるようで、ページをめくっている間は緊張を忘れられるんです。『手塚さんは緊張しないんですか』なんて、バカみたいな質問をしたらくださったんですけど、今では僕のバイブルのようなもので必ず楽屋に持っていっています」

 


家族には、秘密も嘘も一切ありません


向井さんは、観客としても熱烈な舞台好き。こまめに劇場へ足を運び、さまざまな演出家の作品を観ています。新作『リムジン』の作・演出は、数年前から作品を観続けてきた倉持裕さん。演劇作品以外にも、NHK『LIFE!~人生に捧げるコント~』の脚本も手掛ける、注目の劇作家であり演出家です。

「実は、片桐はいりさんから『倉持くん、すごくいいよ』と聞いて、作品を観るようになったんです。倉持さんの作品は、笑いとその中にある鋭い棘のバランスが素敵ですね。ここで笑っていいのか、一瞬戸惑ってしまうブラックユーモアが、すごく好きです。ご本人はとても丁寧に優しく話す方で、思っていた通り、作品に対する思いや責任感がとても強いですね。2年前に初めて食事をした際に、『倉持さんの世界観が好きで、そこに入ってみたい』と気持ちを伝え、『リムジン』に繋がりました。作品を観ながら、『繊細な演出をするんだろうな』と勝手に想像しているんですけど、倉持さんの稽古場が今から楽しみです」

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本多劇場という演劇の聖地で演じられることも、本作に参加する大きなモチベーションに。そして東京公演が終わると富山を皮切りに、全国9か所を巡ります。

「東京で芝居をやっている以上、本多は是非立ってみたかった劇場です。本多劇場のある下北沢に漂う、いい意味でのアナログ感も好きですね。大学が小田急線沿線だったこともあって、上京以来、古着を買いに行ったり飲みに行ったり、よく通ってました。今でも舞台を観に月1くらいで行っています。地方公演は、土地ごとにお客さんのリアクションが違うのが面白いですね。『悼む人』のある地方公演では、僕が客席に降りて、亡くなった人を悼むポーズをとったら、おばあちゃんに『ありがとう』と拝まれてしまって(笑)。シリアスな話なのに笑いをこらえるのに必死でした」

『リムジン』は、自己保身のためについた嘘を巡る心理サスペンス。そこで「今だから言える嘘は?」と、テーマにまつわる質問を投げかけると、「あったとしても言えないですよ」と苦笑い。

「言っちゃったら、秘密にならないですよ。でも、本当に家族に秘密にしていることもないし、嘘も一切ついてないです。強いて言えば、節分の日に壮大な嘘を子供につきました。『鬼が来るぞ』って。僕が鬼役をやったんですけど、声色を変えるとか得意なんでね(笑)。子供が怖がって、まあよく泣いて。家にあった豆、全部投げつけられました」

舞台に対する熱い思いをたくさん語ってくださった後にぽろりと出てきた、豆まきのエピソード。それまでの真剣なまなざしから一転、柔和な表情に。そうした幸せな時間があるからこそ、仕事では厳しく自己を律し、恐怖に打ち勝って、舞台に立てるのかもしれません。
 

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<公演情報>
M&Oplays プロデュース『リムジン』

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ある男が保身のためについた一つの嘘が、次の嘘を呼び、次第に取り返しのつかない事態になってしまう。作・演出は倉持裕。主演の向井理をはじめ、水川あさみ、小松和重、青木さやか、宍戸美和公、田村健太郎、田口トモロヲと、魅力的なキャストが集結。3月21日(土)よりチケット一般発売。

【東京】2020年5月23日(土)~6月14日(日)/本多劇場
【富山】2020年6月16日(火)/富山県民会館ホール
【大阪】2020年6月18日(木)、19日(金)/梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
【愛知】2020年6月20日(土)、21日(日)/東海市芸術劇場大ホール
【島根】2020年6月23日(火)/島根県民会館 大ホール
【広島】2020年6月25日(木)/JMSアステールプラザ 大ホール
【福岡】2020年6月27日(土)、6月28日(日)/ももちパレス・大ホール
【愛媛】2020年6月30日(火)/松山市民会館 大ホール
【仙台】2020年7月3日(金)/電力ホール
【新潟】2020年7月5日(日)/りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館・劇場

撮影/塚田亮平
取材・文/小泉咲子
ヘアメイク/晋一朗(IKEDAYA TOKYO)
スタイリング/外山由香里
構成/山崎 恵
 
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