セクシャリティやジェンダーが多様でも、
そこにいるのは“ごくごくふつうの家族”


「麻ちゃんとの結婚式をきっかけに、私の気持ちは大きく変化していました。大好きな人たちから、浴びるように祝福してもらって、“私はこれでいいんだ!”と思えるようになり、とても晴れ晴れとした気分でした。その勢いでホームページを立ち上げたのです」

 

これが現在、小野さんが代表を務めるLGBTの団体「にじいろかぞく」の原型となるサイトでした。
当初は小野さんがひとりでポツポツと発信していたものの、小野さんの体験に共鳴する仲間が少しずつ増えてきました。
さらに「にじいろかぞく」での活動が評価された結果、アメリカ国務省が主催する社会人向け研修プログラムに参加することに。LGBT先進国での取り組みを大いに吸収した結果、小野さんは「にじいろかぞく」を組織化します。

「2019年には子育てをするLGBTを中心に、セクシャリティもジェンダーもさまざまな60人強が参加してくれています。子どもを追いかけて走り回っている多様な家族たちを見るたびに、そこにいるのは特別じゃない“ごくごくふつうの家族”だなぁと、いつも思います」

そして2019年2月、引っ込み思案で“フツーのおばちゃん”だった小野さんが、「結婚の自由をすべての人に」訴訟、いわゆる同性婚訴訟の原告になったのです。

「意識が変わったのは、アメリカで研修してからです。同性婚合法化前のアメリカで、『結婚できないということは1000個の社会保障を受けられていないということ』と聞いて衝撃を受けたのです。結婚というのは“ロマンティックなもの”ぐらいに思っていましたが、 『結婚制度というのは、社会保障のパッケージなんだ』と言われてストンと腑に落ちたのです。『同性婚の法制化が必要!』ではイメージできなかったけど、『男性と結婚していた時と生活も変わらないし、子育ても同じようにしている。だったら、同じように社会保障を受けられるべきだ』という、もっと生活に密着した話だと気づいたのです」

国を相手に戦うということが、どれほどストレスフルなものであるか、想像に難くありません。小野さんたちは、世間に顔を晒して裁判の原告になることを、まずは子どもに相談せねばと、3人の子どもたちにLINEで相談します。すると彼らの返事は……。

長男 ガンバ!
娘 はーい、頑張れ〜!
次男 りょ 

思った以上に軽い!(笑)。深刻に心配していた小野さんたちとの対比に、思わず笑ってしまいました。


同性婚訴訟は、世論に左右される


そして提訴から一年が経った現在、訴訟の先行きはまったく見えていません。小野さんはこう語ります。

「この訴訟は、世論や注目度に左右されると言われています。ぜひ、皆さん傍聴にいらしてください! そして、いろんなところで同性婚について話題にしてください。同性婚ができるようになっても、ノンケの皆さんの生活は何も変わりません。単に幸せに生きられる人が増えるだけです。よく“同性婚が認められたら出生率が下がる”なんて意見も聞きますが、いやいや、同性婚が認められた国では、出生率は変わらないか、微増になっているという例もあります。あと“同性カップルに育てられる子どもがかわいそう”という意見も聞きますが、これにはいつもわが家の子どもたちがブーブー怒っています。 
『そういうことを言う人がいなくなれば、私たちは普通に暮らせるのに!』
ってね。 
訴訟はまだあと何年も続くでしょう。同性婚ができるようになれば、今みたいに結婚『できない』のではなく、『する』か『しない』かが選べるようになります。そうなれば、若い頃の自分のように、将来が見えずに迷走する人が、少しは減るかもしれない。異性の人だろうが、同性の人だろうが、誰を好きになっても、同じように年を重ねていく未来が思い描けるようになるかもしれない。
あとは、わが家の子どもたちが、将来「誰かと結婚したい!」と思ったときに、親がLGBTだということが、支障にならない世の中になっているといいなぁ……」

“フツーのおばちゃん”が同性パートナーと子連れ同棲し、“家族”を作りあげるまで_img0
 

『母ふたりで“かぞく”はじめました。』
著者:小野春(講談社/税別1400円)


20代で自身のセクシャリティを自覚。同性のパートナーと子連れ同棲を開始し、結婚式を挙げ、LGBTの団体「にじいろかぞく」を立ち上げるも、乳がんが発覚し……。日本初の同性婚についての集団訴訟を起こした原告のひとりである小野春さんが、怒涛の人生を軽やかな筆致で綴ります。


構成/小泉なつみ