景気が良いということは、多くのモノや人が移動して、たくさんの取引が行われることと同義です。つまり景気を刺激するには、たくさんの人や物を動かさなければなりません。しかし、こうした活発な経済活動というのは、感染拡大防止には逆効果となります。

3月27日、国会の参院予算委員会での安倍晋三首相。 写真:つのだよしお/アフロ

政府が国民に不要不急の外出をしないよう要請している中で商品券を配ったとしても、政府の要請を受け入れる人であれば、それを積極的に使うような消費行動は取らないでしょう。逆に、商品券をフル活用して、盛大に食事をするような人は、友達や親戚をたくさん家に呼んでしまうかもしれません。また旅行券を配ったとしても、慎重な人であれば、感染が完全に終息しても、すぐには旅行に出かけないでしょう。

 

では、このような矛盾した状況においては、どんな経済対策が有効なのでしょうか。完璧な答えというのは存在しませんが、筆者は「優先順位を設定する」という点に尽きると考えています。

今、説明したように、感染が拡大している状況では、商品券配布といった景気刺激策はあまり効果を発揮しません。一方で、外出の自粛などで顧客がいなくなり、倒産の危機に瀕しているお店も増えています。非正規社員やアルバイトとして働いている人の中には、事実上、解雇されてしまった人も多く、生活困窮者が増えている状況です。

まずは、こうした人たちの生活を支えることが最優先であり、そのためには相応の金額を一刻も早く支給する必要があると筆者は考えます。コロナウイルスによる肺炎の治療も同じですが、生活困窮者を救い出すためには、早いタイミングで手を打つことが極めて重要となります。

例えば、住む家が確保されていれば、10万円程度のお金を受け取ることで当座の生活を維持できる人も、家賃を払えずに一度家を追い出されてしまうと、そこから10万円で生活を立て直すことはできません。こうした事態を防ぐためにも、早期の給付が必要ですし、公共料金や家賃の支払い猶予(大家さんへの補償)なども併せて実施するのが望ましいでしょう。

景気を回復させるための施策は、こうした対策が一段落してから実施した方がよいですし、現実問題としてその方がはるかに効果が大きいでしょう。生活困窮者が増えてしまうと、景気の底上げそのものができなくなるというのが偽らざる現実なのです。

前回記事「「リモートワークの力」が、これからの必須スキルになっていく」はこちら>>

 
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