確かに農家の地道な自家採取がなくなってしまうと、ある程度、農業が工業化する可能性は否定できませんから、食べる側としては少し心配になる面があるのは確かでしょう。一方で、日本の農業はあまりにも生産性が低く、これが逆に日本の食の安全性を脅かしているとの指摘もあります。
日本は諸外国と比較して農家の規模が小さく、収益力も低いというのが現実です。種子を購入するコストが農家の経営を圧迫する可能性について取り沙汰されているのも、やはり収益性という部分に大きく関係しています。さらに困ったことに、一部の農家では、低い収益性をカバーするため、必要以上に農薬を使い、農作物の品質を下げているとも言われます。
かつては、日本の農作物は世界でもトップクラスの品質で、諸外国の農作物は農薬まみれというのが一般的なイメージでした。しかし、この20年のうちに日本以外の国々はオーガニック農業へとシフトしたことで、今では状況が完全に逆転しており、諸外国で作った農作物の方が農薬が少なく、品質が高いケースが増えているのが現実です。
農業従事者の環境も劣悪といってよいでしょう。日本には諸外国から、事実上の奴隷労働であるとして強く非難されている外国人技能実習制度というものがあり、一部では不当に安い賃金で外国人が農作業に従事させられています。
近年、政府は日本の農作物の輸出を強化する施策を行っていますが、世界で農作物を販売するためにはグローバルGAPと呼ばれる認証を取得するのが有利とされています。ところが、日本では農作業に従事する人の労務管理が杜撰なため、この認証を取得できず、農作物を海外に輸出できないケースが少なくありません。
このように「食」をめぐる問題はあちこちに存在しており、ひとつの問題を解決すればよいという状況ではありません。
最終的には私たちが「食」というものにどれだけのお金をかけられるのかが重要となってきます。「安心」「安全」な食べ物を口にするためにはやはり相応のコストがかかります。柴咲さんも「様々な観点から審議する必要のある課題と感じました」とツイートしていますから、この問題をきっかけに「食」について意識を高めていくことが重要でしょう。
出典元:
国連食糧農業機関「農地1面積あたりの農薬使用量」他(2017年調査)
農林水産省「有機農業をめぐる我が国の現状について」(2019年資料)
前回記事「「テレワーク移行で郊外へ引っ越し」はもう少し待ったほうがいい理由」はこちら>>
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