2018年に日産元会長のカルロス・ゴーン会長が東京地検特捜部に逮捕されたことは皆さんの記憶に新しいと思います。新聞やテレビでは、勾留中のゴーン氏について「自分は無実であると主張している」「反省の様子はない」など、本人の様子が報じられています。多くの人は、何も考えずにこのニュースを聞き流しているかもしれませんが、東京拘置所に勾留されていて、誰もその姿を見ることができないゴーン氏の様子がなぜ外から分かるのでしょうか。

2020年1月9日、カルロス・ゴーン被告が逃亡先のレバノンで行った前日8日の記者会見に対し、同じく会見で反論する森まさこ法相。

それは検察官が新聞記者に情報を提供し、記者はその情報をもとに報道を行っているからです。これをマスコミ用語ではリーク報道と呼びます(リークとは、公開されていない情報を意図的に特定の記者などに漏らすこと)。

 

しかし、本当にゴーン氏がどのような様子なのかは、外部の人には絶対に分かりません。検察はしばしば、国民が反感を持ちそうな情報をあえて新聞記者に流し、世論を誘導して裁判を有利に進めようとします。日本では容疑者がなかなか保釈されないのは、容疑者の本当の姿を一般国民に見せないようにする狙いもあるのです(当然ですが、先進諸外国ではこうした行為は人権侵害と見なされます)。

つまり検察にとってはマスコミというのは、世論を誘導し、捜査や裁判を有利に進めるための最強のツールですから、個人的な関係構築を強く求め、新聞記者と仲良くなろうとします。記者も検察の意図は分かっており、情報操作の一部に加担していることは理解しつつも、有力な情報が欲しいという気持ちがあり、場合によっては、検察からの情報をそのまま記事にしてしまいます。

もちろんこうした関係性はよくないことですが、現実には、私たちが日常的に見聞きしている報道の多くは記者へのリーク情報で成り立っています。警察や検察は公式発表はほとんど行いませんから、こうしたリーク報道をなくしてしまうと、世の中では多くの事件がそもそも存在していないという状況になってしまうでしょう。

世の中ではマスコミの報道を声高に批判している人が多いのですが、実は自分たちも、検察とマスコミが流した情報に踊らされているということになかなか気がつきませんし、それこそが検察側の狙いです。

筆者は、こうした新聞記者と検察(あるいは警察)の関係は見直していくべきだと考えますが、まず、私たちが知っておくべきなのは、世の中で公式な情報と思われているものの多くが、実は特定の人や組織の意図を反映したものであるという現実です。

世の中では報道を見聞きして、怒ったり、反発したりしていますが、情報リテラシーが高い人は、そのような反応はしません。良い悪いはともかくとして、まずはその情報が、誰が何の目的で流したのかを考え、その背景にある事情を考えます。こうした一歩引いた対応ができるようになると、政治や経済の見方も大きく変わってくるでしょう。

前回記事「なぜ今?柴咲コウさんも言及した「種苗法改正」が賛否両論な理由」はこちら>>

 
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