米倉涼子さんが見た、最新のおすすめエンタメ情報をお届けします。

自粛期間中にNetflixでのドラマ鑑賞にハマった人も多いのではないかと思います。私もそのひとり。今回はその中から、次のエピソードが気になりすぎてあっという間に観終わってしまったスペインのドラマシリーズ『ペーパー・ハウス』を紹介します。

アメリカに住んでいる友人から「すごく面白いよ!」とおすすめされたのですが、最初はスペインのドラマってあまり馴染みがないなぁ、なんて思っていたんです。でも結果的には、あともう一話、もう一話……の連続でシーズン4まで止まらなくなりました(笑)。
ここまで夢中になって一気観したのは、思い返してみる『24−TWENTY FOUR−』以来です。

 

“教授”と呼ばれる謎の男が犯罪歴のある男女を集めてチームを結成し、王立造幣局に強盗に入るというストーリー。指名手配中の女や偽札作りのプロ、天才ハッカーなど個性豊かなメンバーたちの本名が明かされることはなく、トーキョー、ベルリン、ナイロビなどわかりやすい都市の名前で呼ばれています。
スペシャリストたちがスキルを生かしていく展開が面白いのですが、このメンバーがとにかくはみ出し者揃い。教授は誰も傷つけることなく24億ユーロもの紙幣を印刷するという計画を立て、メンバーと事前に打ち合わせをする時にもチェスをするように先手先手を考えた作戦を伝えています。

 

それなのにトーキョーを筆頭にメンバーたちはいつも自分の欲望に忠実で、すぐに感情的になるキャラクターばかり。この局面でそんなに間抜けな行動をするの!? と何度もハラハラさせられました(笑)。
ブロードウェイでも感じたのですが、共同作業をする時の感覚が日本人とは違うのかもしれないなぁ、と。同じ振り付けで踊ってもひとりひとり違う動きになることもよくあるし、群舞で個性を出す人もいるし……、なんてことを思い出しました。

驚いたのが、人質解放交渉人の警部まで感情的な人物として描かれているところ。私が以前、交渉人を演じた時には、感情的な人をナビゲートする役割だから自分を常にカームダウンさせなさい、私情を挟まず冷静沈着に、と言われていました。
それなのにラウルは交渉人になりきれていないんですよね。そういうどこか欠けたキャラクターたちが、ストーリーをさらに面白くしていることは間違いないと思います。

 

感心したのは、犯人側はもちろんのこと、ムカつく不倫男、大使館員の娘、よく働く造幣局のおじさんなど、人質側の人物像もそれぞれにしっかり描かれていること。
“教授”とメンバーたちが邸宅で計画を練る時の家族感と、強盗に入ってからの緊迫感の緩急もあって、深呼吸できるシーンと手に汗握るシーンのバランスもいいんですよね。脚本にかなりの時間がかけられているドラマだと思います。

グラマーだけどタンクトップになってもいやらしさがないたくましい女優陣、細部まで作り込まれたセット、邸宅でのピクニックのようなシーン、赤いつなぎをメインにしたビジュアル……、と語りたい魅力はまだまだたくさん! 
シリーズものの面白さを再発見したと同時に、もしかして「『ドクターX』の新シリーズ、待ってます」と言ってくださる方はこんな気持ちなのかな、と改めて感謝の思いを芽生えさせてくれたドラマです。

『ペーパー・ハウス』
世界中で人気を呼んでいる、スペイン発のクライム・アクション。“教授”と呼ばれるミステリアスな男が犯罪のプロフェッショナルを集めて訓練し、人質とともに造幣局に籠城。警察と巧みに駆け引きしながら、強盗計画を進めていく。シーズン1〜4までNetflixにて独占配信中。

取材・文/細谷美香
構成/片岡千晶(編集部)