新型コロナウイルスの流行が徐々に落ち着きを見せるなかで世間の関心は「第二波到来の可能性」へと移りつつありますが、問題はそれだけではありません。ウイルスに感染し入院、その後退院していた人が、再び陽性と診断されるケースが各地で報告されているのです。アメリカの国立研究機関博士研究員でウイルス学や免疫学が専門の峰宗太郎先生に、集団免疫獲得の難しさと合わせて解説していただきました。

【峰宗太郎医師が解説】なぜ再感染?知っておくべきコロナの免疫と治療法  #コロナとどう暮らす_img0
国内の病院にて、厳戒態勢の中で治療にあたる医療従事者。 写真:ロイター/アフロ


「再感染」より「ぶり返し」の可能性が


新型コロナウイルスSARS-CoV-2による感染症COVID-19 において、感染すると身体の中に「抗体」という、ウイルスと戦う物質ができることがわかりつつあります。一般的な感染症において、抗体ができるということはほぼ免疫ができるということと同じ意味なのですが、しかし新型コロナウイルスSARS-CoV-2感染症COVID-19では、実際にすべての患者さんに免疫ができているかどうかはまだわからないところがあります。つまり、一部の人は免疫ができていない可能性も考えられているのです。そうすると、一度感染した人がまた感染する可能性ももちろんあるということになります。

 

しかし、一度退院した人がまた陽性になったケースについては、再感染とはちょっと違うのではないかなと考えています。もし2度感染したとするならば、退院後にもう一度、他の感染者との接触をしていることになりますが、当時それほどの流行が日本で起こっていたとは考えにくい。よってその可能性はまず低いのではないかということです。
では、どういったことが考えられるのか。

退院時の検査を行ったときには、身体の中のウイルスの量が非常に少ない状態になっていて、検査では陰性と判定されたが(つまり検査結果が偽陰性ということです)、その後にウイルスがまた増えるような状況となって、病状が悪化し「再燃」したというものです。
これは風邪の「ぶり返し」に近いもので、感染が継続していた状況であり、症状が再び悪化するという現象ですね。この可能性が高いと考えています。

また、別の可能性としては、再感染が疑われた時に行われた検査が「偽陽性」であったということが考えられます。実際にはウイルスはもういないのに、検査では陽性となってしまった。これについてはそれほど多く起こることではありませんが、そういったこともあると知っておく必要はあると思います。

さて、はじめに述べたように、新型コロナウイルス感染症において免疫ができるであろうということはなんとなくわかってきているのですが、まだわからないこともあります。その一つは、免疫ができたとして、どのぐらいの期間その免疫が継続するかということです。一度罹れば一生罹ることがない「終生免疫」ができるのか、またインフルエンザのように1年以内に免疫が失われるようなものなのか、そこもよくわかりません。新型コロナウイルスではない、風邪を起こす旧来型のコロナウイルスの研究では、免疫は長くても1年以内程度しか続かないこともわかっています。新型コロナウイルスについては感染した人を今後定期的に検査していくことで検討するしかないでしょう。


「感染して免疫獲得」は現実的には不可能


さらに、集団免疫という考え方があります。これは、一般人口の多くの割合が免疫を持つことで、集団内での感染症の流行を防ぐことができるというものです。

集団免疫を獲得するには理論的な計算式があり、「1-1/R」で表される割合の人が免疫を保有すれば集団での流行がおさまる、という考え方です。このRというのは感染のしやすさを示す実効再生産数というものです。難しい話になりますが、新型コロナウイルスSARS-CoV-2についてはこのRが1.7~2.5ぐらいと考えられています。そうしますと、だいたい60%の人が免疫を獲得すれば、流行のおさまる「集団免疫が達成された状態」になると考えられます。特に対策がなされていれば、実際にはこの値より少なくても集団免疫が成立する可能性はある(最近の研究で注目されています)のですが、細かいことは今は置いておきます。
では実際、今どのぐらいの人が感染しているのでしょうか。日本においては、PCR検査などの結果から見るとだいたい10万人当たり8人程度。0.01%とかそんなものです。たったそれだけの感染者の割合でも、医療現場は非常に逼迫する、新型コロナウイルスとはそういう感染症なのですね。

そう考えると集団免疫の獲得が達成される60%というのはまだまだほど遠く、かつ、感染の拡大によってそこへ向かった場合は非常に多くの患者が出て重症者も出て、死亡者も増えるであろうことが予想できます。スウェーデンでは自由に外出できる状況を保ち、集団免疫を形成することで収束することを目指した政策をとりましたが、当初の予想を遥かに超える死亡者がでていることがわかっています。

こうしたことから、野放図に、何もコントロールせずに、感染を拡大させることで集団免疫を得ようという考え方には無理があることがわかると思います。犠牲者や社会に与える負の影響が大きすぎますし、そもそも免疫が1年以上続くかもわからず、集団免疫を意図していても免疫が翌年にはダメになる可能性さえもあるからです。

ただし、ワクチンができればこの状況は変わり得ます。ワクチンによって免疫を獲得することで集団免疫状態を達成することが可能になるかもしれません。

 
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