日本で「被害者叩き」がやまない理由。もうスルースキルという言葉は死語にしよう_img0
2019年12月、「2019 スターダム YEAREND CLIMAX」に出場した際の木村花選手。 写真:平工幸雄/アフロ

リアリティ番組「テラスハウス」に出演していたプロレスラーの木村花さんが亡くなるという痛ましい出来事がありました。ネット上の誹謗中傷についてはたびたび問題視されてきましたが、十分な対策が行われているとは言い難い状況でした。

 

木村さんの死を受けて、政治も動き出しており、総務省はSNS上で名誉毀損などにあたる投稿があった場合にSNS事業者が開示する情報について、IPアドレスだけでなく電話番号も加える方針を示しています。

被害者が簡単に加害者の情報を入手できるようになれば、裁判などの諸手続きがスムーズになります。誹謗中傷している人は匿名を隠れ蓑にしており、実名でも同じことができる人はほとんどいないはずですから、手続きの簡素化は、攻撃そのものを抑制する作用をもたらすと考えられています。

政府のこうした対応については、一部から、政治家が資金力を使って反対派を封じ込める手段として使う可能性がある、制度を悪用して個人情報を不正に取得するケースが出てくる、といった懸念も出ているようです。しかしながら、ネット上の誹謗中傷は目に余る状況ですから、一連の対策が実施されるのはやむを得ないことでしょう。

著名人の場合、特にその傾向が顕著ですが、日本ではどういうわけか、ネットで誹謗中傷を受けるのは当然といった雰囲気があり、被害を受けても我慢すべきだという声が一定数、存在していました。こうした風潮は「スルースキル」などという奇妙な言葉が存在することからも伺い知ることができます。

スルースキルというのは、ネット上で寄せられる誹謗中傷にはいちいち反応せず、大人の対応としてスルーする能力のことを指しています。要するに相手の暴力的な言動に対して、毅然とした対応はせず、受け流すのが美徳であり、その方が知的で洗練されているという価値観と捉えればよいでしょう。

実は日本社会には似たような風潮がたくさんあります。

セクハラやパラハラがその典型ですが、加害者ではなく、被害者や、事件を告発した人が周囲からバッシングされるというケースがよく見受けられます。日本では被害を受けても騒ぎ立てたりしないことを「大人の対応」などと呼びますが、「大人しい」という言葉には「大人」という文字を使います。「大人の対応」と言うと聞こえはよいですが、被害を受けても反論せず、泣き寝入りすべきだと言っているわけです。

しかしながら、この価値観は現代の民主国家としては根本的に間違っています。
 

 
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