特別編の放送により人気が再燃しているドラマ『愛していると言ってくれ』(TBS系)。7歳のときの病気によって聴覚を失った新鋭の画家・榊晃次(豊川悦司)と、女優の卵の水野紘子(常盤貴子)。ふたりが織りなすラブストーリーは四半世紀を経てもなお高い完成度で私たちの心を締めつけます。
時を超えても色褪せぬ感動の秘密は、どこにあるのか。その魅力を語ってみたいと思います。
聞こえないからこそ伝わる、ふたりだけの秘密のコミュニケーション
まずは何と言っても、手話をはじめとしたふたりのコミュニケーション。相手の声を聞くことができない。発話によって言葉を交わすこともできない。そんな「障害」があるからこそ生まれた、ふたりだけのコミュニケーションがこのドラマを特別なものにしています。
たとえば、第1話。出会ったばかりでまだ手話を知らない紘子は、ワープロに文字を打ち合うことで晃次と言葉を重ねます。液晶画面に、1文字1文字浮かぶ言葉。それは声に出して話すよりもずっとゆっくりでまどろっこしいのだけれど、その分、1文字1文字が初々しくて、まぶしい。
さらに交際をはじめたふたりは、毎朝、ファックスでやりとりをするように。まだ携帯電話が一般的ではなかった時代。メールなんてものも市井に広まってはいませんでした。紙に手書きで文字を綴り、それをファックスにセットする。吐き出されてくるファックスのスピードはやっぱりスローリーでじれったくなるんだけど、でもその待っている時間さえいとおしい。メールにはない手書きのぬくもりは、その人らしさがにじみ出ていて、聞こえない声まで聞こえてくるよう。朝の支度をしながらファックスの束を広げる晃次と紘子が愛らしくて、真似してみたいと思った人も多いのでは。
他にも映画館デートで、ふたりが上映中に映画の悪口を言い合うのも、音の出ない手話ならではのシーン。ほとんどの人たちが、何を言っているのか理解することさえできない手話のやりとりは、まるでふたりだけの秘密の暗号のようでした。
また、ケンカのはずみで耳が聞こえない晃次に「好きなCDさえ一緒に聴けない」と言ってはいけない言葉をぶつけてしまった紘子。同じ音楽を分かち合えない。そんなふたりがゴミ捨て場に捨てられていたおもちゃのピアノで「大きな古時計」を一緒に弾くシーンは、きっとこれが耳の聞こえる者同士ならば、こんなにもかけがえのないものにはならなかったはず。好きな人と同じ気持ちを分かち合う。それがどんなに心の高鳴るものなのかを、『愛していると言ってくれ』は様々なシーンで描いていました。
ラブストーリーの女王・北川悦吏子が紡ぐロマンティックなシーンの数々
また、脚本家・北川悦吏子が紡ぐロマンティックなシチュエーションの数々も、このドラマの魅力のひとつ。紘子には届かなかったリンゴを晃次がもぎとって渡すという、日本のテレビドラマ史上、最も有名な出会いのひとつであろうトップシーンに、多くの視聴者が夢を見ました。
個人的に大好きなのが、晃次の母校である大学に、ふたりで夜中に潜り込むシーン。ふたりで過ごした思い出がないと残念がる紘子のために、母校へ連れ出す晃次。大教室で話をしていたふたりは、守衛に見つかりそうになって、机の下に隠れます。あのときのふたりのイタズラっぽくはしゃいだ空気は、全12話の中でもとびっきりキュートで幸せそうでした。
また、地方公演での本番を控えて緊張する紘子に、受話器越しに思い出のオルゴールで「大きな古時計」を聞かせるシーンも、言葉を話せない晃次ならではの愛情が深く沁み渡る名場面のひとつ。北川悦吏子といえば、『ロングバケーション』(フジテレビ系)のスーパーボールに代表される通り、日常にあるなんてことはない場面を、豊かな感受性によって一生忘れられない特別な1ページに変える天才です。そんな彼女の卓越したセンスは、この『愛していると言ってくれ』でも存分に発揮されています。
さらにそこにDREAMS COME TRUEの名曲『LOVE LOVE LOVE』が重なることで、せつなさが倍増。どこか聖歌にも似た旋律と、無駄な言葉を一切省いたシンプルな詩。そして、あのアダムとイヴのようなタイトルバックが相乗効果を生んで、このドラマにある種の神話性をもたらしました。
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