小池百合子都知事のスピーチの採点は?
人が説得されるには、3つの要素が必要といわれています。
アリストテレスが唱えた「説得の三要素」ですが、「ロゴス(論理)」、「パトス(情熱)」そして「エトス(信頼)」とされています。
つまり頭で理解して、心に訴えられて、さらに信頼を感じたら、人は説得されるということです。
では、小池百合子東京都知事のスピーチはどうでしょうか。
まず優れたところからあげると、キーワード作りの巧みさです。
「三密」というキーワードを作ることによって、「三つの密」が覚えやすくなり、人々に感染防止を促しました。このあたりはさすが元メディア出身だけあって、キャッチフレーズの大事さをわかっているといえます。
それでは実際のスピーチ例を参考に、構造を見ていきましょう。
まずは新型コロナウイルス感染症に関して、です。4月28日に実施いたしました緊急調査の結果、入院患者数が約1800人、医療提供体制については現在約2000の病床を確保しております。宿泊療養施設は2800室超を確保しています。宿泊療養施設には受付・掃除ロボットを採用していきたいと思います。
いま一度STAY HOME、STAY IN TOKYO、SAVE LIVES、このことをあらためてお訴えしたいと思います。誰かがやるんじゃないです、自分なんですね。ぜひ皆さま方のご協力をお願いしなければ、この戦いは終わりません。(パート①)
それから新型コロナウイルス関連のポータルサイトに出演の方々の中でお勧めは、片付けコンサルタントのこんまりさんです。私も彼女の本を読みましたら、だんだんときめかなくなったら、それはもうサイン、捨てちゃうっていうことらしいです。(パート②)
コロナ関係ではなく私からもう1つ別の話でございます。廃プラスチックの国内有効利用。(パート③)
以上ご報告でございました。私からは以上です。
まずパート①の部分。ここは具体的に数値をあげて、ステイホーム等を呼びかけています。ロジカルでわかりやすいですね。ロゴス(論理)に訴える部分です。
ではパート②はどうか。こんまりさんの話を出したところは、パーソナルな話なので、若干パトスに寄っている気もします。とはいえ、これを聞いてとても共感した、心が動いたというような内容ではないので、パトスともいいきれません。かといって論理的でもないので、パトスにもロゴスにもなり得なかった、たんなるニュートラルな情報といっていいかと思います。
そしてパート③。これもまた前後の脈絡なく、新しい話題が出ています。言いたいことは「廃プラスチックの有効利用」となりますが、これも情報として、ロゴスに入るでしょう。
と、このように見ていくと、小池知事のスピーチが「ロゴス攻め」、つまりパトス(情熱)やエトス(信頼)に欠けたまま、徹頭徹尾ロゴスで行っていることがわかります。
実はこれは日本のスピーチやプレゼンにおける特徴でもあって、数字や実績、あるいは事例紹介といった、ロゴスだけで終始することが多いのです。
普段のビジネスシーンを思い出してみて下さい。会議でも、商品説明でも、プレゼンでも、自社紹介でもほとんどがそのパターンになっていないでしょうか。
日本でのスピーチはロゴス一辺倒になりがちなのです。
といってもスピーチに、どうやってパトスやエトスを入れていくのか、ピンとこないかもしれませんね。つぎに、三つを揃えたケースを見せましょう。
ロゴスにエトス、パトスを加えて支持を得たニューヨーク州のクオモ知事
ニューヨーク州は世界でもっともコロナ感染被害を受けた都市です。
それでもクオモ知事は、州民の高い支持を受けました。クオモ知事が毎日行うブリーフィングで信頼を獲得したのです。
では、その構造の秘密はなにか、スピーチ例から見ていきましょう。
まず数値を見よう。
「入院している感染者数の推移」、「人工呼吸器を必要とする人の増減」、「退院した人の増減」「死者数の推移」、「累積検査数」「人種、居住区域からみた感染率」…事実を知らないことは、ためにならない。真実だけが問題なのだ。(パート①)
私は自分の職務を非常に重く受け止めている。言い訳はしない。失敗があれば、すべて私の失敗だ。事態が崩壊したりうまくいかなかったりすれば、私の責任だ。毎日死者数を見ながら責任を痛感している。(パート②)
我々はタフだ。ニューヨーク・タフ、だ。この町は良い意味で私たちをタフにしてくれる。我々はこれを乗り切る、なぜなら、黒人も白人も褐色人種もアジア人も、背の低い人も高い人もゲイもストレートも、ニューヨークはみんなを愛している。だから私はニューヨークを愛しているのだ。最後には愛が勝つ。だからウイルスにも必ず勝つ。(パート③)
スピーチの構造を見ていくと、パート①では、数値を具体的に出していって、そのためにはこういう措置をすると導く、ロゴスの部分です。具体的に毎日、数値や図表を見せて、データに基づいて方針を決定する、きわめてロジカルな知事です。
つぎにパート②の部分。ここでは「自分が責任を取る」と断言しています。
「言い訳はしない、失敗があれば、自分の責任だ」
ということで、非常事態の時に「冷静沈着に責任を丸ごととる」と断言するリーダーほど、信頼と倫理性の高さ(エトス)を得られるものはないでしょう。
さらにパート③の部分。ここでは、ニューヨークに生きるダイバーシティ溢れる人たちと、だからこそ作られるタフなニューヨークへの愛を口にして、パトス(情熱)を揺さぶります。
多くのニューヨーカーにとって感動を呼んだのが、この「愛」の言葉でした。
クオモ知事は毎日の会見で、必ずこの数値というロゴス、エッセンシャルワーカーに対する感謝や、カンザスからマスクを送ってきてくれた農夫の紹介といったエトス、そしてニューヨークに対する愛、ニューヨーカーに対する愛というパトスを組みあわせて話してきました。
ロゴスだけではなく、エトスやパトスを動かすことで、州民の心をがっちり掴んだのです。
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