7月の連ドラ『アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋』に出演予定だった清原翔さん(27)。ドラマには、モデルで同期だった成田凌さんが代役として出演することが発表されました。清原翔さんを襲った脳出血とは、どのような病気なのか。総合診療医の山田悠史先生にうかがいました。山田悠史先生には、毎週、医療情報をわかりやすく解説いただいています。過去の記事と合わせて参考にしてください。

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清原翔さんにみる「脳出血、若者と中高年の違い」と「予防法」_img0
 


手術後、どのような状況か


俳優の清原翔さんが脳出血で入院したことが報道されました。若いのになぜ、と思われた方も多かったかもしれません。

現在、手術からは二週間以上経ち、病状が不安定な、危険な時期は脱したものと想像されます。後遺症を少しでも軽くするためにリハビリテーション を頑張られている頃かもしれません。7月からのドラマに代役がたつのは当然のことでしょう。脳出血は後遺症が残るケースも多く、この時期のリハビリテーションはとても大切なのです。

さて、本稿では、改めて清原さんを苦しめた「脳出血」とは何か、学び直せるよう情報を整理していきたいと思います。
 

 

「脳卒中」には、脳出血と脳梗塞がある


脳出血は、脳梗塞などとまとめて「脳卒中」と呼ばれたりもするものです。脳梗塞が脳の血管が詰まって血液が行き渡らなくなり脳の細胞が死んでいってしまう病気なのに対して、脳出血は脳の血管が破れて血液が脳内に漏れ出してしまう病気です。結果として、周囲の脳の細胞に障害が起こり、半身の麻痺や呂律が回らない、などの症状を起こします。

血管を水道管に例えると、水道管の中が詰まっても、水道管が破れても、いずれにせよ水が水道を流れなくなり困ってしまうのと同じように、原因は違っても、結果は似ており、「脳卒中」とまとめられています。
 

脳出血の歴史


少し歴史を遡ってみると、我が国は1965年には、なんと世界で一番、脳卒中の死亡率が高い国でした。また、当時、その大半は脳梗塞ではなく脳出血でした。しかし、その後は脳出血の死亡率が劇的に低下し、1975年には脳出血が脳梗塞を下回ったことが報告されています(参考1)。ここには、原因として、高血圧治療の普及や食生活の向上などが挙げられています。また、食事が魚中心から肉中心に変わったことなども原因ではないかと推測されています。

こう言われる所以には、魚と肉の「あぶら」の違いがあります。肉に含まれる動物性脂肪は、数々の研究から、血管の動脈硬化と関連することが示唆されています(参考2)。動脈硬化は、先の水道管の例で言えば、管の中のサビです。ツルッと滑らかな水道管とは異なり、通りが悪くなり、小さなゴミなどが詰まりやすくなります。このような理由から、動脈硬化が進むと「脳梗塞」が起きやすくなります。

一方、魚のあぶらは、動脈硬化に保護的に働く可能性が示唆されています(参考3)。皆様もDHAやEPAなどという言葉をどこかで聞いたことがあるかもしれません。それらはいずれも、魚のあぶらの主要な成分です。これらはいわば「サビ取り」の役割があるのではないかと期待されている成分です。

魚のあぶらが注目されたのは、元を辿ると、デンマークの北西にあるグリーンランドの住民たちの食生活に端を発します。この地域の住民たちは魚介類の消費量が世界でも類を見ないほど多かったのですが、このグリーンランドでの動脈硬化性疾患の発症率が非常に低かったのです(参考4)。

このことから、魚のあぶらと動脈硬化の関連が注目され、様々な研究が行われるようになり今に至っています。なお、その副作用として、かわりに出血が増えることも指摘されており(参考5)、このバランスによって脳梗塞より脳出血が多くなるのではないかと言われています。

これらはいずれも因果関係がクリアに証明されたものではないものの、一つの仮説としては面白いですよね。

また、日本人のもう一つの食生活の特色として、塩分摂取量が多いということが挙げられます。日本人の塩分摂取量は、1日あたり平均8gとも10gとも言われます。特に、東北地方でその摂取量が多いようです。高血圧の方に推奨される塩分摂取量の上限が6gですから、日本人は標準的に塩分摂取過多なのです。世界を見渡せば、ブラジルのヤノマミ族という人種は、塩分を1日平均0.2gしか摂らないようです(参考6)。とても大きな差があることがわかります。

この塩分摂取は如実に高血圧の発症や悪化と関連することが知られています(参考7)。高血圧は、水道管に例えれば、水道管の内部の圧力が高まる状態ですから、水道管が破裂しやすくなる、すなわち、脳出血が起きやすくなることが想像いただけるのではないかと思います。

こういった背景もあり、日本人はその生活習慣とも密接に関連して、脳出血が多い人種でした。しかし、現代では、食生活も多様化し、より西洋文化に近いスタイルも定着しました。これにより、脳出血は全体にも減ってきているのです。
 

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