実は繊細な素顔。
人生のテーマは「意外」と言われること

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そうは言うものの、松尾さんが若い頃に経験した出来事は、読んでいるこちらがハラハラするものがいっぱい。たとえばうっかり事故物件に住んで恐怖に怯える日々を過ごしたり、借金が膨れ上がったり、お酒に溺れてバイトを辞めてしまったり……。

 

「たしかに今振り返ってみると、自分でも軽く震えますね。当時はピンときてなかったけど、本当に行き当たりばったりでバカだったなあ、と。でも当時は、何がなんでも役者になる!とかそんな強い意志を持っていたわけでもなくて、ただ“生きていく”ということに必死だったんです。
だからなのか、ある友人から『お前はゴキブリみたいなヤツだな』と言われたこともあるんですけど、自分では全くそう思っていなくて。こう見えて根は繊細なんですよ」

たしかにガッチリした体型、アクの強い役柄などからは、「繊細」という二文字は浮かびにくいもの。でもエッセイにおける細やかな情景・人物描写に触れると、それも納得。何より、松尾さん自身が描いたという上手すぎるサブカルティックな挿絵からも、松尾さんの繊細な感性を強く感じます。

「絵を描くことは趣味でも何でもなかったんです。ただガジェット好きで、iPadにイラストを簡単に描けるソフトが入っていたので、楽しいしイラスト代も浮くしということで、最初は指で描き始めたんです。そうこうしているうちに何度かiPadが壊れて、買い換えるたびによりよいペンシルを使うようになり、それに従い僕の絵も飛躍的に伸びていったんです。
でももともと何かを作るのは好きで、タバコケースを革で作ったり、スマホをデコレーションしたり。このアイパッドケースもちょうどいいサイズがなかったので、自分でダンボールをカットして作ったんですよ。これは2代目で、前のニューバランスが入っていたダンボールで作ったやつは、かなりオシャレだったんです」

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そう言って見せてくれた自作のアイパッドケースは、お店で売られていてもおかしくないオシャレさとクオリティの高さ!スタッフ一同、驚愕していると、「ね、だから繊細なんですよ」とおどける松尾さん。

「よく周りからも“意外”って言われるんですけど、“意外”は僕の人生テーマでもあって。こう見えてモデル事務所所属とか(笑)。“意外”って良く言えば、バランスがいいことだと思うんですよ。歳をとるにつれて、バランスが大事になってくるなと感じていて。だから健康的な食事が好きでファスティングなんかもするんですけど、一方でお酒もたくさん飲むし脂っこいものも食べる。
売れなかった時代も何がなんでも役者になるとしがみついていたわけではないし、ずっと『これしかない!』と思わずに生きてきた。今は役者一本で食べていけるようになりましたし、もちろん可能な限り続けていきたいと思っていますけど、そのしがみつかないスタンスは持ち続けたいなと思っています」

現在、44歳。そんな松尾さんが、今抱いている今後の夢とは?

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「コロナ問題もあって、今後はライフスタイルが大きく変わるのか、あるいは変わらないのか……。それすらも分からない時代ですし、はたまたいつ大きな災害が起こってもおかしくない。だから、東京でマンションに住んで、という生活も快適なんですけど、そこにしがみつこうとすると、またしんどくなるかなと。
そんな思いもあって、最近ハマっているのが『プリミティブテクノロジー』というオーストラリアのユーチューバーの動画なんです。彼は短パン以外は一切何も持たず、自然の中で暮らしているんです。食糧を自分で獲るのはもちろん、火も自分でおこし、器すらも自分で作って。動画はBGMも説明もないので、本当に葉擦れの音とか環境音だけが聞こえてくる。見ているだけで癒されるんですよ。
……ただこのユーチューバーの彼、動画がヒットしてその後本も出したんです。もしかしたら今頃、あの生活はやめて高級マンションで優雅に暮らしていたりして(笑)」
 

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<書籍紹介>
『拾われた男』

松尾諭 著 ¥1500(税別) 文藝春秋刊

俳優の松尾諭による「文春オンライン」の連載をまとめた1冊。たまたま拾った航空券を落とし主に届けたところ、それが今の事務所の社長だった、という驚きのエピソードに始まり、井川遥さんの運転手時代、転機となった大ヒットドラマへの大抜擢、入籍を目前に共演女優に恋した話など、笑える話からホロリと泣けるエピソードまで盛りだくさん。一度読みだしたら止まらない面白さです!

撮影/Junko Yokoyama (Lorimer management+)
取材・文/山本奈緒子
構成/片岡千晶(編集部)
 
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