女性の活躍や男女共同参画が声高に叫ばれる日本。しかし、2019年発表の日本のジェンダー・ギャップ指数は153カ国中121位と最低レベルであると、教育ジャーナリストのおおたとしまささんは、著書『21世紀の「女の子」の親たちへ 女子校の先生たちからのアドバイス』の中で指摘します。女の子たちの活躍を後押しするために、いま親たちは何を知っておくべきなのか。 女子校の先生たちに取材を重ねることで見えた、女の子を取り巻く社会構造や価値観の多様化について教えてくれる本書は、きっとそのヒントになるはずです。
「女らしく」を望んでしまう親自身がもつ偏見、いわゆるジェンダー・バイアスのアップデートの必要性や、変化を遂げる「性教育」の現状など、女の子をもつ親のための気づきが詰まった内容から、特別に一部を抜粋してご紹介します。
口ではみんな男女平等がいいと言いながら、なぜ現実はそうならないのでしょうか。おそらく意識的に女性を差別しているひとはごく一部です。多くのひとが、無意識のうちに女性の社会的立場を低く見積もる「バイアス(偏見)」にとらわれているのです。バイアスのせいで、何の悪気もなく、男女不平等な状況を維持してしまうのです。男性だけでなく、女性自身にもそのバイアスはあります。
たとえばいつも怒りっぽいひとが少々荒っぽい言葉遣いをしても気にしませんが、いつもは穏やかな口調のひとが同様に少々荒っぽい言葉遣いをすると、まわりをびっくりさせてしまうことがあるでしょう。「前提」が違うからです。
これと同じ理屈で、部下へのフィードバックとして同じ言葉を同じように言っても、男性上司に言われるよりも女性上司に言われるほうが「きつい言い方」と受け取られることが多いという研究結果があります。これも意図しない悪気もない無意識の差別といえます。
困難や逆境にめげない、柔軟な意志力を育む
バイアスの存在は、女性にとって見えない強烈な向かい風になっています。神戸女学院中学部・高等学部の林真理子先生(当時)は「学校にいたときはどっちかっていうと図々しいタイプだった生徒も口をそろえて言うのは、すごく悩みが大きいということです。#Me Tooではないけれど、やっぱりハラスメントとかもあるようです」と証言します。
学校の中では性差なんて気にしなくていいですから、なんでもできるし、なんでも自分でやらなきゃいけない。でも社会に出ていくと、現実の壁を前にしてやっぱり一度は打ちのめされるというのです。
「たとえばこのあいだ、建築デザイナーをやっている卒業生が来てくれました。建築業界なんてもうほとんど男性社会。若い女性が現場に行っても対等に扱ってもらえないし、セクハラまがいの目にあったこともあるらしく、本当に苦労したようですが、自分の筋を通すってことが大事かなと思います。うちの子たちはもともとの気が強くて絶対黙らないんで、新種の女性みたいに思われるようですけど(笑)」
性差が存在しない女子校という環境でのびのびやっていたからこそ、現実社会に出て行ったときに大きなギャップを感じてしまうということです。では中高生のうちから実社会の現実に慣らされておいたほうが幸せなのでしょうか。
女子学院中学校・高等学校の校長・鵜﨑創先生は「心が育つ時期に、ある意味守られた、特別な環境の中に身を置くことに意味があるんだなと、女子校に転勤して初めてわかりました。もし社会の縮図の中でこの子たちが育っていったら、一生知らないで終わってしまうものがあります。早く現実に適応させることばかりが教育ではありません」と指摘します。
普段とは違う環境に身を置くことで、気づきを得ることができます。それが新たな問題意識へとつながります。たとえば留学。それと同じ作用が、女子校や男子校に身を置くことにあるというのです。気づけるから「大変だけども変えていこう」と思えるわけです。
だからこそ「女子校にいる間に、ジェンダーの枠組みにとらわれないで自分の興味があることを何でも思いっきりできる経験を通して、社会に出てから少々叩かれても跳ね返せる強靭なメンタリティをフル充電しておいてあげたい」と神戸女学院の林先生は言います。そのメンタリティを、具体的には傍若無人なほどの「自信」と「レジリエンス」と林先生は表現します。
レジリエンスとは、困難や逆境における心理的な復元力のこと。何が何でも強引に突き進む「折れない心」とは若干ニュアンスが違い、回り道をしたり、ときには少し時間をおいたりしてでもやり通そうと思える柔軟な意志力のこと。
林先生によれば、レジリエンスを身につけるために必要なものは2つ。1つは、チャレンジをバカにされず、失敗してもけなされない、安心できる人間関係。もう1つは、自分自身との真摯な対話。自分自身との真摯な対話のために必要なのは、価値観を押しつけられるのではなく、自分自身で徹底的に考え抜く経験です。
その点、「本校では、ルールで決まっているからというような頭ごなしの指導は一切しません」と林先生は断言します。生徒からの要望に対しては「なんでそう思うの?」とか「なんでそうしたいの?」と問いかけながらとことん話を聞きます。そうしているうちに生徒の側も自分自身の本当の気持ちや大切にしている価値観がわかってくるというのです。家庭でも見習いたい態度です。
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