ああ、また小池百合子になっちゃったな……と思う、都知事選開けの月曜日。
なんていうんでしょうか、百合子。超お嬢様で、カイロ大学にいたんだかいなかったんだか、結局の所どうなのと問いたくなる百合子。「アウフヘーベン」とか「ネクストユニコーン」とか、「ええと、それはどういう意味で……?」ってカタカナワードで世の中を翻弄し、話してる内容がスッカスカであることを巧妙に隠している百合子。前回の選挙公約が全然守られてないことを意に介さず、今回の圧勝で「都民のみなさんにお許しをお示し頂いたということで!」とか思ってそうな百合子。


「他と比べて良さそう」が多数派という誘導尋問の危険性


そんな百合子が圧勝しちゃう東京って……と思うとなんだかどうにもこうにもで、自分だけの楽しみに埋没し世の中に完全に背を向けたくなります。『愛の不時着』と『梨泰院クラス』をリピして、大好きな店で山盛りのカキフライにマヨネーズを付けて、自粛中のビールと白ごはんとともに胃袋に収め、お気に入りの靴屋さんとかバッグ屋さんに直行し「ここからここまで全部ください」と”棚買い”して、家に帰ったら何もしない何も考えないで2~3日お布団にくるまっていたい。とか妄想するそばから、私個人の生活を直撃(って大げさだけども)する「コロナ禍による不景気」マターが発覚し、あの人たちがわたしの生きる社会を仕切ってる状況ではどこにも逃げられないんだああああーーー!と我に返る、その無限地獄にイマココ。いやほんとに。

 

さておき。選挙前に20代の姪っ子に「チミは誰に投票すんねん?」と尋ねたところ、「百合子がいいとは思わないけど、宇都宮健児って地味だしジイさんすぎる」的な返答が帰ってきて、「吟味するのそこじゃねえし!政策やろが!!」と胸ぐら掴みたくなる気持ちを6秒こらえ(アンガーマネジメント)冷静に考えてみると、まあそうよね、たしかに私だって「私が世界の中心!なんだってできるぜーい!ひゃっはー!」という無根拠な万能感と青天井の脳天気に支配されていた20代の頃は、「カイロ大学卒業(かもしれない)のアウフヘーベンな元ニュースキャスター」と「貧困問題に取り組むニチベンレンの元会長70歳オーバー」を比べたら、よくわかんないけどアウフヘーベンがネクストユニコーンって感じ!と思っちゃうのも仕方ないのかもしれません。

ことほどさように、選挙はイメージに支配されているのですが、そうした人たち(つまり社会にそれほど興味がなく、自分で情報を探しに行かない人たち)に最初にイメージを吹き込む、最大にして時には唯一の情報源がテレビだということに、私はモヤモヤします。というのも、昨今のテレビ番組の多くが「勝ち馬に乗る」--つまり「この人が勝ちそう」「この人がいま権力者」という人のご機嫌をとるスタンスで、番組を作っているようにしか思えないからです。

つねづねその典型例のように私が感じているものが「世論調査の選択肢問題」です。なんだそれと思う方も多いことでしょうそうでしょう、これから私が勝手に問題化する問題なので。テレビなどで、時の政権とか次の総裁候補とかに対する支持・不支持を問う世論調査で、「支持する」と答えた人たちの理由を問う項目がありますね。あそこにある「他の**より良さそうだから」という選択肢。なんなのあれ、ってだけでモヤる理由十分ですが、何がモヤるって、大抵の場合この選択肢を選ぶ人が最多で、どう考えてもそうなることを予想して組み込まれている選択肢であることです。

もちろん理由を聞いても「分からない」と答える人がすぎるために、この選択肢が用意されているんでしょう。でもそれなら「分からない」のままでいいんじゃないの?そもそも「他の」って誰のこと?それと比べて「何が」良さそうなの?。他にやらせたこともないのに、なんで「良さそう」と分かるの?そもそも「他より良いから」でなく「良さそう」って、何?無根拠な妄想?「他と比べて良さそう」なんて言葉使ってるから、なんとなく理由になってる風ですが、これ「アレとくらべてアレだから」と1ミリも変わりません。
恋人に「ねえねえ、私のどこが好き?」って聞いて、「うーん、そうだなー、渥美ちゃんの魅力は、なんていうのかな、アレと比べてアレだから」という答えた帰ってきたら、私なら何を誤魔化してるのか吐くまで許しません。痴話喧嘩ならそれでもいいけど、世論調査としてはちょっと雑すぎないか。せめて「何が」良さそうなのかくらいまで、選択肢を用意すべきじゃないか。

誤解されると困るのですが、私は「なんとなく支持」「わかんないけど支持」と言う人を非難しているわけではありません。問題は、こうした人たちを「他より良さそう」という選択肢に集約し「最多数の意見」(つまり世の中の趨勢)のように垂れ流すことの害悪。なぜなら自分の答えを出しかねている人は、「多数派はこう思っている」という安心感から、答えを導き出し、同調行動をとってしまうからです。
さらに言えば、状況や他者を否定するのが苦手、変化が苦手な現状維持バイアス(「変わらないほうが無難」という思い込み)が強い日本人にとっては、「支持」は「不支持」よりも容易い選択です。「他より良さそうだから」は、「わかんないけど支持」のそうした多義性を無視した、「世の中の多くの人が支持」というイメージを作り出しているんじゃないか。


ほかの候補者を“見る”機会が圧倒的に少なかった今回の都知事選


今回の「そんな百合子」の勝利は、「コロナで大変な時期に、トップが変わると混乱を招くんじゃないか」という現状維持バイアスが強く働いた結果だろうなと思います。でも「圧勝」には、大手メディア--外で人を集めることができない時節に、多くの人がアクセスしやすいテレビで候補者の議論の場を作らず、「議論したくない人」の思惑を突くことすらしなかった大手メディアの、「どうせ百合子が勝つんだから」というスタンスの影響も大きかったんじゃないかなと思います。辛勝と圧勝では、都政運営の緊張感もまったく異なってくるのだから、小さな問題でありません。

もちろん決まったからには、頑張ってもらいたい。コロナが一段落したら、宇都宮健児の公約「男女差別のある会社には、都の仕事はさせない」というのも、ぜひやってほしいなあ。でもね、一般的に言えることとして、支持が安定し任期が長くなると組織って硬直化し、腐るからね。新しい血が入らず、新しい視点を持てず、既存の体制を見直し刷新する機会が失われ、誤りや不合理、不条理、非効率を省みるきっかけをつかめず……っていうのは、現政権を見ても自明の理。そうならないよう、コロナ対策、オリンピック開催の可否、それ以外も注視していかねばなりません。任期途中で国政進出&都知事辞任とか、都政をバカにするようなことは、マジでやめてね。

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