〔ミモレ編集室〕には、第一期、第二期の3ヶ月タームごとに取り組む課題があります。
4月からスタートした第一期の課題は、【雑誌研究】でした。
大好きな雑誌を一冊取り上げ、なぜその雑誌が自分の心を掴んで離さないのか、何が心に響いているのかを深掘りし、その雑誌の魅力について、ミモレ読者にも伝わるように原稿に書いてみる、という内容です。
中でも特に素晴らしかった原稿をこちらでご紹介させて頂きたいと思います。
『ラ・ファーファ』に見る、ダイバーシティを体現するモデルの役割について
『ラ・ファーファ』(文友舎刊)という雑誌をご存知でしょうか。
“マシュマロ女子”なる言葉を生み出した、標準よりプラスサイズ(ぽっちゃり)な女子を対象にした、単刀直入に言えば、太った若い女子向けニッチなファッション雑誌です(笑)。
今回は、実際に2Lサイズ以上のドラえもん体型を持つ私が、この雑誌に見るモデルの役割を考察してゆきたいと思います。
最近の雑誌等では、毎号表紙を飾るイメージモデルが設定されています。
現在の女性誌だと『Precious』は大政絢さん、『STORY』が高垣麗子さん、『25ans』なら森星さん等、その雑誌の読者層の理想像を体現するモデルとして、女神を意味する「ミューズ」と呼ばれたりもしています。
『ラ・ファーファ』も、創刊当時には渡辺直美さんが表紙を飾っていたのを知っている人もいるかと思いますが、現在では一人に固定せず、元・AKB48でタレントの野呂佳代さん、同じく元・PASSPO☆の岩村なちゅさん、TVドラマ『美食探偵 明智五郎』での好演も記憶に新しく、近日公開予定の映画『私がモテてどうすんだ』ではヒロインを演じる富田望生さんや、「ラファモ」と呼ばれるプラスサイズモデル達が、表紙や紙面を飾っています。
特に「ラファモ」達は、ちょっとぽっちゃり?と言う人から体重135キロの人まで、個性豊か。
中でも100キロ越えのモデル達は、三桁に因んで「みけポチャ」と呼ばれています。
なるほど、上手く言ったもんです(笑)。
私が初めて『ラ・ファーファ』を読んだのは2020年5月号だったのですが、巻頭特集「ダイバーシティを体現し、“自分らしさ”を大切にする 10人10色のおしゃれ♡」を読んで、私が一番驚いたのは登場したタレントやモデルの身長、スリーサイズが表記されていたこと。
また、「ラファモ」達が実際に着用しているページでは、身長、スリーサイズに加え、コーディネイトで着用した服のサイズまで表記されます。
これ、自分と体形が近いモデルの人を参考にするのに、実に有意義な試み。
通販サイト等では見たことがありますが、ファッション誌では私は初めて見ました。
『ラ・ファーファ』が、このように身長、スリーサイズに加え、着用した服のサイズまで表記するという試みをしているのは、「ぽっちゃり」と一言で言ってもサイズの幅が広い、という事に対応しているのではないかと推察します。
言わば、「ぽっちゃり」間の中で多様性に対応しているのでしょう。
ところで『ラ・ファーファ』のような雑誌が成立しているのは、「今までのファッション誌の中では、太った女性は想定対象外のマイノリティとして隅に追いやられていた」からだと思うのです。
これは高度成長期以降のファッションが、既製品主体である事情とも関係があるのでしょうが、日本国内で多く売れるサイズしか作らない、となると(XS)、S、M、L、(XL)のせいぜい3~4サイズ。
日本の消費者はこのサイズから外れると、買い物が結構大変になります(私も外れてます:笑)。
また、太った容姿は現代日本における多くの女性誌上において、ダイエットや着こなし特集等で克服すべきものとして取り上げられる存在であり、そのままの容姿で肯定されることは、私の35年余りかけて読んできた数多の女性誌の中には、どこにも記憶にありません。
サイズに対しての多様性は、日本では長らく黙殺されるどころか「標準的なサイズに収まらないのは悪である」というメタメッセージがダイエット特集や着やせ特集等を通じて繰り返され、その他者からの視線を内在化したぽっちゃりさんたちは標準から外れた自分という存在に自信が持てず、疎外され放置され続けていた状態だった、と言えると思います。
ここに光を当て、身近な着こなしの手本として、「ラファモ」達はぽっちゃりだから出来ないと思い込んでいる読者に対し、「こんな着こなしもできる」という可能性を示し、読者の半歩先を歩く存在なのでしょう。
ぽっちゃりさんにとって、自分の体形に近い女性がたくさんの着こなしを見せてくれる『ラ・ファーファ』の存在は、心強いものがあります。
また、20~30代がターゲットなので、しまむらやサカゼン等のお財布に優しいメーカーが多用されています。
こんなことを書くと、私がダイエットを否定しているように見えますが、20代の頃には『FRaU』で連載されていた「世にも美しいダイエット」で3か月で11.5キロ、最終的には7か月で17.5キロ痩せた経験があります。
この時には全身に出た湿疹を治したい一心でダイエットしたのですが、自分の体は自由に加工する事が出来る、という自信を持つことが出来ました。
まぁ、リバウンドして今に至っているのですが(苦笑)。
健康を保つ、と言う意味ではダイエットは否定しませんが、それでも体型的にどうしようもないこともあります。
例えば巨乳。
今年の第62回グラミー賞で、最優秀新人賞、最優秀アルバム賞、最優秀レコード賞、最優秀楽曲賞という主要4部門に加え、最優秀ポップ・ヴォーカル・アルバム賞まで最年少で受賞したビリー・アイリッシュが、先日”NOT MY RESPONSIBILITY”と言うショートフィルムを発表し、話題になりました。
彼女は体の線が出ないオーバーサイズの服装(バギースタイル)を好むことで知られていますが、その理由が巨乳なのだそう。
そして、この服装について彼女へのボディ・シェイミング(体型批判)やスラット・シェイミング(露出の多いファッションをする女性への批判)が横行し、その反論として作成されたのが、この”NOT MY RESPONSIBILITY”のショートフィルム。
胸が大きいのを気にしてオーバーサイズを着れば服装がダサい、と言われ、ピッタリした服を着ると性的に見られてしまう、この矛盾。
ショートムービーの中のセリフのように、「私の価値は、あなたがどう思うかで決まるの?」と、言いたくもなりますよね。
また、”エンジェル”と呼ばれる肉感的でありながらスタイル抜群な専属モデル達を擁する下着メーカー、ヴィクトリアズ・シークレットが、プラスサイズ、トランスジェンダーのモデルに対する不適切な発言を行い、炎上した事件もありました。
服のサイズにまつわる考え方や環境は、ボディ・ポジティブムーブメント等により、ここ数年で目まぐるしく変わりつつあります。
世界的にはファッションはダイバーシティ、インクルーシヴな方向に向かっているようですが、日本においてはまだまだこれから、という感じ。
私などは将来、色々な体型の人が当たり前のように雑誌のファッションページに登場する日を夢見ずにはいられません。
余談ですが、お菓子のマシュマロの語源となったウスベニタチアオイ(英語でMarsh mallow)の花言葉は”恩恵”、”慈善”や”優しさ”。
現代の”マシュマロ女子”たちには「女神」や「天使」がいなくても、自尊心を傷つけられることもなく、自分の好きなおしゃれを伸び伸びと楽しんでくれると良いな、と『ラ・ファーファ』を読んで、そう思いました。
『la farfa』最新号(2020年09月号)はこちら>>
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ゑゐるさん
「私は、私の好きなもので、出来ている」がモットーの、アラフィフ未婚、子なし、実家パラサイトです。
服のサイズはLどころか2L、3Lサイズ。 大抵のファッション情報は、残念ながらあまり役に立たない・・・。
デブ目線の情報や、たいていの人にとって、どうでもいい事を呟く予定。