私たちは歌っているんだ――。それだけで涙が溢れます

写真提供/東宝演劇部

10年の時を経て、初演と同じメンバーと同じ作品に携わることで、思い出したことがたくさんあるのだと、彩吹さんは続けてくださいました。

 

彩吹:JKimさん、知念里奈さん、新妻聖子さん、井上芳雄さんの4名の共演者の方々は、皆さん素晴らしい歌唱力の方々で、当時、その中に入れていただいたことをすごく光栄に感じたことを思い出しましたし、実際にお稽古に入ってみると、自分との歌唱のレベルの差に愕然として、必死にお稽古したことも思い出しました。宝塚を卒業して本当にすぐだったので、男っぽく振る舞うシーンはすぐに準備ができましたが、スカートをはいたり足を出したり、露出が多い衣装での見せ方が分からず……と、とにかく自分のことで必死だったんです。そこから再演を繰り返して、最後にこのメンバーで出演したのが2012年。今、お稽古していると、当時の自分も懐かしいし、ほかの4名のメンバーはもう私にとって家族みたいな感じなので、それぞれの方々の人生にも変化があったことをちょっと思い浮かべたりしているんですよね。


ご結婚・ご出産など4人の共演者の人生にもそれぞれ大きな変化が訪れていました。

彩吹:私のプライベートには変化はありませんでしたが(笑)、でもやはりずっと舞台に立ってきた8年間というのを思い返すと、本当に感慨深くて。(新妻)聖子ちゃんはあんなに小さいのに、もうお母さんなんだー!とか、まるでお母さんのような気持ちで見てしまうんです。その年月の移り変わりに加えて、コロナ禍や豪雨災害や地震など、本当に様々なことが降りかかってくる中で、手探りだけれども、エンタメがもう一度立ち上がろうとしていること、私たちは歌っているんだって思うこと、それだけで涙があふれ出てしまう――。もう毎日がそんな感じです(笑)。

 

今回の『SHOW-ISMS』はストリーミングで配信される日程があり、会場に足を運べない方も劇場の熱い歌声を堪能することが可能だそう。彩吹さんは『DRAMATICA/ROMANTICA』バージョンに加えて、2011年に出演した『Underground Parade』の一部を盛り込んだ『マトリョーシカ』バージョン(8月1日、4日)にも出演される予定です。


彩吹:今回小林さんは「今だからこの曲を届けたい」という気持ちで選曲されていると思うんです。初演と変わらず選ばれている曲もありますが、10年という年月を経て、そして今の状況を乗り越えようとしている私たち――、もちろんそれは劇場に来てくださる皆さま、配信を見てくださる皆さますべてを含めてですが――、私たちにしかできない共鳴、共有の感覚があるのではないかと、そう思います。
 

9月には朗読劇、ミュージカルコンサートに出演の予定も


シアタークリエのほか、帝国劇場、そして彩吹さんのホームともいえる宝塚大劇場(宝塚市)など、大きな劇場が次々と再始動を始めました。緊急事態宣言が発令される前、そしてそれが明けてから、実は花組公演『はいからさんが通る』の演技指導に入っていたという彩吹さん。ようやくお客様に観ていただけること、「本当に感無量です」と教えてくれました。


彩吹:2月くらいからずっと花組のお稽古に携わらせていただきましたが、もう情が移っちゃうというか……。彼女たちの初日が中止になり、延期になり、また中止になりというのを見ていて、もう胸が苦しくて苦しくて。自分もそこ(歌劇団)にいた経験があるからこそ、生徒たちがどのように生活し、どんな思いで舞台に立っているかが手に取るようにわかるんです。

予定されていた日程から丸4カ月ほど延期されてようやく初日が開きますが、花組新トップスターの柚香光さんは、この自粛期間をしっかり味方につけていらしたと、最後の舞台稽古を拝見して思いました。自分の苦手なところや弱点を認識して、それを克服するための努力を重ねたそうです。主役の伊集院忍として存在しながら、男役としてのお芝居のダイナミックさやナチュラルさ、娘役さんに対する包容力などが増していて! もちろんほかの組子たち、下級生たちも素晴らしかったです。こうやって演技指導に入らせていただいたことで、自分自身が舞台に立つときはなおさら、下級生のみんなに話したことを守らないといけないと思いましたし、柚香さんが一回りも二回りも大きくなった姿を拝見して、そこから学ぶことがとにかく多かったんです。本当にいい経験をさせていただきました。


『SHOW-ISMS』の出演が終わったあと、9月には2つの公演が控えていらっしゃるそう。

彩吹:まずは音楽朗読劇「母と娘をつなぐ言葉-冷蔵庫のうえの人生-」です。木下晴香さんとは初めての共演で、私はシングルマザーの母親役。毎日忙しく働く産婦人科の医師で、木下さん演じる娘のクレアとはなかなか対面して話をする時間が持てないので、冷蔵庫にメッセージを貼って「牛乳を買っておいて」「○○さんから電話があったよ」とやり取りをしているんです。母親はやがて病に冒されていくのですが、母が娘に対して心配させまいとする思い、今までは反抗もしていたけれど、母を思う気持ちがどんどん増していく娘の様子などをお互いの“メモ”に託していくんです。普通のやり取りではなく、メモを読んでいくという朗読劇は一風変わった作品ではありますが、自粛期間をずっと実家で母と一緒に過ごしていたので、私なりの“母親像”がどういうふうになっていくのか、それが楽しみでもあります。木下晴香さんはまだお会いしてないのですが、透き通る声が印象的な女性。トーク番組を拝見させていただいて、とてもしっかりされている印象なので、彼女のお母さん役ができると思うと、とても楽しみなんです。

「母と娘をつなぐ言葉 -冷蔵庫のうえの人生-」【公演日時】2020年9月4日(金)15:00開演/9月5日(土)14:00開演【会場】兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール チケット購入&詳細はこちらから>>

もうひとつは、Bunkamura オーチャードホールで行われる『BROADWAY MUSICAL LIVE 2020』です。


彩吹:こちらは、ミュージカル『マリー・アントワネット』という舞台でご一緒した吉原光夫さんが演出されるコンサートです。吉原さんの演出作品は今までにも拝見したことがありますが、それがとても素敵だったので、このコンサートもすごく楽しみ。まだ全貌はわかりませんが、きっとショーアップされたゴージャスなものになりそうな予感がしています(笑)。同じく『マリー・アントワネット』で共演させていただいたLE VELVETSの佐藤隆紀さんや今回の『SHOW-ISMS』でご一緒した知念里奈さんも出演されるので、それも楽しみです。実はもう歌う曲も何となく候補が出ているんです! ミュージカルファンの方ならご存知!という曲ばかりで、私も初めて挑戦する曲がとても多くて。ぜひ楽しみにしていてください!

『BROADWAY MUSICAL LIVE 2020』【公演日時】9月25日(金)19:00・9月26日(土)13:00/17:30【会場】Bunkamura オーチャードホール チケット購入&詳細はこちらから>>


最後にこれからの公演を楽しみにしているファンの皆さんへメッセージを頂きました!

彩吹:今回の『SHOW-ISMS』は配信もあります。チケットを取って劇場に来てくださる方は同じ空間にいることをしっかり感じていただけると思いますし、やはり歌の力は凄まじいと思うので、配信でもそれを一緒に感じてくださるといいなあ、と。この数カ月、残念ながら中止になってしまったライブや舞台もあり、落ち込んだりもしましたが、私は常に「いつか何かできるだろう!」という希望だけは捨てずにいるんです。ニューノーマルではありますが、少しずつ動き始めていますので、劇場に来てくださったり、配信で観ていただいたりと、ご自身の可能な範囲で楽しんでいただけると嬉しいです。
 

 

彩吹真央 Mao Ayabuki
女優。6月9日生まれ、大阪府出身。愛称は「ゆみこ」。1992年宝塚音楽学校入学。第80期生。1994年に宝塚歌劇団入団、花組『ブラック・ジャック 危険な賭け/火の鳥』で初舞台を踏む。2010年4月、雪組東京宝塚公演『ソルフェリーノの夜明け』-アンリー・デュナンの生涯-『Carnevale(カルネヴァーレ) 睡夢(すいむ)』-水面に浮かぶ風景-の千穐楽をもって宝塚歌劇団を退団。同年7月、SHOW-ism『DRAMATICA/ROMANTICA』で女優としてデビュー。主な出演作品にミュージカル『サンセット大通り』、ミュージカル『モンテ・クリスト伯』、ミュージカル『ラブ・ネバー・ダイ』、『End of the RAINBOW』『イヌの仇討』ミュージカル『マリー・アントワネット』など。豊かな声量と伸びやかな歌声が魅力。ミュージカルのみならず、ストレートプレイでも高い演技力を発揮。2020年9月4日、5日、音楽朗読劇『母と娘をつなぐ言葉-冷蔵庫のうえの人生-』 (兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール)、2020年9月25日、26日『BROADWAY MUSICAL LIVE 2020』(東京・Bunkamuraオーチャードホール)に出演予定。
彩吹真央公式Instagram:ayabukimao_official

撮影/塚田亮平
取材・文/前田美保
構成/川端里恵(編集部)
 
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