電気自動車メーカー「テスラ」、宇宙開発事業を行う「スペースX」のCEOを務め、常に世界の注目を集める天才経営者、イーロン・マスク氏。その母であるメイ・マスクさんが著書『72歳、今日が人生最高の日』で語ったのは、想像を絶する波乱万丈の人生でした。夫のDVが原因で31歳の時に離婚、シングルマザーで3人の子育てに奔走、それでも諦めなかったキャリアとモデルとしての成功――。どんな苦難も世間のエイジズムも跳ね返す、エネルギッシュな人生哲学が詰まった本書から、その内容を特別に一部抜粋してお届けします。

 

メイ・マスクさん:国際的なスーパーモデル、登録栄養士であり、世界中で講演を行っている。『ヴァニティ・フェア』、『ヴォーグ』、『コスモポリタン』、『マリ・クレール』、『アルーア』といったファッション誌で頻繁に特集を組まれ、『ニューヨーク・マガジン』では表紙を飾った。カナダで生まれ、南アフリカで40年近く暮らした後、カナダに移住して現在はロサンゼルス在住。

 

メイ・マスクさんのモデルとしてのキャリアのスタートは15歳の時。現在72歳のスーパーモデルとして注目を集める彼女も、それまでは商品カタログやデパートで催されるファッションショーなど、決して華やかとはいえない場所で地道なモデル活動を続けていました。転機となったのは、年齢を重ねて、モデル事務所からの仕事の依頼が激減した50代のこと。あることをやめ、運命が大きく動き出します。

「59歳、髪を染めずに白いままにした。2年後、『ニューヨーク・マガジン』誌の表紙で妊婦になった(もちろん、ほんとうに妊娠したわけではないけれど、かなり真に迫っていたはず)。67歳、初めてのニューヨーク・コレクションで、3分の1の年齢の女性たちと一緒にランウェイを歩いた。69歳、コスメブランドの〈カバーガール〉の広告に起用された。
そんなことになるなんて、想像できる? わたしには想像できなかった。白髪のままでいることがスーパーモデルになる秘訣だなんて思いもしなかった。初めてランウェイを歩いたのは15歳で、18歳になったらもう終わりだと言われていた。モデルをこんなに長く続けるなんて思っていなかったし――72歳で最盛期を迎えるなんて、考えたこともなかった。でも57年後のいまもモデルを続けているし、まだスタートしたばかり」

 

モデルの仕事はめったにしないからと、白髪のベリーショートにイメージチェンジしたことが功を奏し、大きな仕事が舞い込むことに。そのチャンスをものにできたのは、自分の価値を認めてくれない事務所に見切りをつけ、新たに複数の事務所と契約し、SNSに自分の写真を投稿するなどして、果敢にアクションを起こし続けた行動力の賜物でもありました。

「働く環境が悪くても自分では変えられず、その状況から抜け出したいと思うときは、先が見えない。とても怖い状況だ。毎日、仕事場でつらい時間を過ごすことになるだろう。喜びを感じられず、毎日が憂鬱になる。仕事とは、楽しくて、大好きなものでなければいけない。起きている時間の大半を仕事に割いているのだから。
わたしは、もっと早く動くべきだった。だからあなたには、どうか、わたしより早く学んでほしい。そうすれば、あまり苦労しなくてすむだろうから。状況が変わらなければ、できるだけ早く逃げ出すこと。たとえ、そのあと何も得られなかったり、あるいは何も得られないだろうと思ったりしても。さらには、そのあと経済的に困ることになっても」

学びを得るまでに時間はかかったとしても、いつでも道は見つかる、計画は立て直せると、メイ・マスクさんは強く訴えかけます。