全国の9割以上の小中高校で一斉にはじまった新型コロナウイルス感染拡大防止のための休校措置(3月2日)。未知のウイルス以上に、急に保護者らに委ねられた家庭学習への恐怖と負担は強烈なものだった。
“平時”なら学校で授業を受けている時間に、家でゴロゴロと過ごす子ども。学校からは課題のプリントを渡されただけで、休校中に学力格差が広がってしまうのではないかという不安も大きかった。さらに育ち盛りの子どもがずっと家の中にいることは体力面でも心配だ。
許されている近場の外出で、なんとか体力も気力も保持したい。様々な不安と課題を抱えながら、未曾有の状況をチャンスに変えようとする、そんな親たちにこぞって買われた物が、実は「図鑑」だった。「コロナ禍」と、そして、なんと「あつ森」が呼び起こした「図鑑激売れ」の背景を探った。
「あつ森」に登場する虫や魚を調べる! 想定外の「図鑑のニーズ」
この5月、ネット通販大手Amazonで前年同月比325.9%の売り上げを達成したのが、『講談社の動く図鑑 MOVE』(以下、図鑑MOVE)のシリーズだ。
特に売れたのが『深海の生きもの』(401%)と『新訂版 鉄道』(381%)だが、『新訂版 昆虫』(265.5%)と『植物』(288.3%)も売り上げを伸ばしている。
原因は何か? ステイホームが叫ばれる中、外出は近場中心となり、その散歩中に見かけた植物や、公園で捕まえた昆虫へと興味がわいて、図鑑が買われた、とみられている。同時期に、ホームセンターでは虫網に虫かごが在庫切れになるほど売れていた。
また、このコロナ禍の巣ごもり需要を背景に大ヒットしているNintendo Switch用ソフト『あつまれ どうぶつの森』(以下『あつ森』)のファンも、図鑑を買っているという。ゲーム内に登場する虫や魚と実在する生物とを見比べているらしいのだ!
実は近所の公園にも学びの機会があった!
都内に住むKさん一家もそんな、コロナ禍に図鑑を買い足した家庭だ。
8歳と11歳のお子さんが通う私立小学校は、公立に先駆け2月末には休校となった。もともとコロナ流行前から『あつ森』のソフトは購入予約していて、以前は1日20分と決めていたゲーム時間も、休校期間は午前20分・午後20分と倍になった。ただ、共働きの両親も自宅にいる時間が長くなり、家族で一緒にゲームをする機会も増えたという。そして子どもたちは、『あつ森』によって、これまで知らなかった昆虫や魚に興味を持ち、より詳しく載っている図鑑で調べる、という流れも生まれた。
「休校期間でなかったら、毎日通学と習い事に追われ、そういった興味を探求するという時間はなかなか持てませんでした。ましてや、親子で一緒に遊んで、一緒に調べて学ぶという機会は、年に数回の長期休暇で事前に計画してやっと持てる特別な体験でした」(Kさん)
両親のリモートワークと、子どもたちの自宅学習のペースがつかめてきてからは、家族4人で夕方ランニングに出かけることが習慣になった。時には公園によって、休憩もした。そんな時に『あつ森』の世界だけでなく、身近な生活圏にも自然があふれていることに子どもたちが気づいた。
そこで、Kさんは、すかさず持ち運びが便利なポケット図鑑を買い足した。持ってはいるが、しょっちゅう開くものではなかったという図鑑。登校再開後の現在も、週末に家族4人でのランニングは続けていて、その時は子ども自ら図鑑を必ず持って出かけ、どんどんと新しい知識を身につけている。
「夏になり、セミやトンボなど、ランニング中に見つかる昆虫が自粛期間から変化しました。遠出しなくても、近所で季節を十分に感じられること、それもコロナ禍での新しい発見です。子どもたちはセミを見つけては、セミが好む木の種類まで分析するようになり、探究心が学びにつながっていることを実感しています」(Kさん)
ステイホームを続けながら、「遊び」と「学び」の両立を目指して試行錯誤を続ける親たち。そんな心の動きが図鑑の売り上げから見て取れる。
『鉄道』&『人体のふしぎ』までも 意外な需要
『図鑑MOVE』の売れ筋は、昆虫や植物だけにとどまらない。
『新訂版 鉄道』はAmazonで前年比381%も売れていて、こちらは外出自粛となって、乗ったり見たり撮ったりして楽しめなくなった鉄道を、せめて家の中で楽しむために買われたと思われる。付録のDVD動画が、鉄道をはじめ動物園や美術館などへのお出かけの擬似体験を提供しているのかもしれない。
また、普段はMOVEにおいての売り上げ10位以下の『人体のふしぎ』は、この5月に、ECサイトでの売り上げで2位に急浮上した。コロナに関連してウイルスや身体の仕組みについて検索した人が多かったのかもしれない。
これまでの図鑑の買い方は、店頭で手にとり各社のシリーズを見比べる、というものだった。しかし緊急事態宣言で、書店の営業が全国規模で6割ほどとなり、ECサイトで買う流れが一気に加速した。『図鑑MOVE』に限ると、これまで売上全体の10%程度がネット書店によるものだったのが、25%を占めるようになった。書店別売り上げランキングも、郊外のモール中心に入る書店を抜いて、4月にAmazonが初めて1位となったという。
親たちは、このコロナというピンチをどん欲に学びというチャンスに変えていた。ウィズコロナの時代に、いかに学び遊ぶか。親と子の試行錯誤は続く。
講談社の動く図鑑 MOVE 昆虫(新訂版)
講談社/編、 養老孟司/監修
講談社の動く図鑑 MOVE 鉄道(新訂版)
講談社/編、山崎友也/監修
講談社の動く図鑑 MOVE mini 植物
講談社/編、天野誠・斎木健一/監修
講談社の動く図鑑 MOVE はじめてのずかん みぢかないきもの
講談社/編、瀧靖之・今泉忠/監修
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