他人でも、よいと思えばきちんと伝える
そして、知らない人でも子どもをほめる例として、今でも忘れがたい経験があります。当時6歳だった息子を連れて、イタリアンレストランで食事をしたときのことです。ファミリーレストランではなく、ある程度落ち着いた雰囲気のレストランでしたが、息子も、好物のパスタにありつけたり、絵本を持っていったりしていたので、おとなしくテーブルについていて、私たちもゆっくり食事を楽しんでいました。
すると、隣のテーブルで食事をしていた初老のご夫婦が、わざわざ私たちのところに来て、息子に「お行儀よく食事をしていたので感心しましたよ、えらいね」とほめたのです。そのときの息子の得意そうな顔といったら……。親としても、他人からほめてもらうというのは大変うれしく、見ず知らずの人でも、良いことをした子にほめてくれるという文化に、とても感激しました。
このように、アメリカでは親も先生もコーチも、そして知らない人までも、子どもをほめまくるのです。そして、そのことで子ども達は自分に自信を持ち、自分を肯定し、さらには尊敬する意識を養っていくことができます。自分は大事な存在であると感じることができるのです。
”人間関係のバイブル”ともいわれる世界的名著『人を動かす』の著者、デール・カーネギーが愛用していた“feeling of importance”という言葉。
「重要感」と訳されますが、カーネギーによると、人間は誰でも“desire to be important”(重要になりたいという願い)という根本的な望みがあり、それが満たされたときに持てるのが「重要感」です。
たとえ、小さなコミュニティの中でも、そのときだけであっても、自分は何か役にたっている、自分はこの場で大切な役割をしている、と思えることです。それがその人の自信につながり、生きる原動力になっているとカーネギーは指摘しています。
カーネギーのアドバイスは人を動かす黄金の法則としてビジネスマンや政治家から絶大な支持を得てきましたが、効果が期待できるのは、ビジネスシーンばかりではありません。「幸せな家庭生活を築くための法則」という章では、「口うるさくしない」「相手を変えようとしない」「相手に求めすぎず、批判しない」「相手の良さを認めてほめる」など、家庭生活を円滑に運ぶ上での重要な心構えを説いているのです。
この記事は2020年9月1日に配信したものです。
mi-molletで人気があったため再掲載しております。
前回記事「駐妻の私を言葉の壁から救った、アメリカ人の「他人をほめる力」」はこちら>>
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木村 和美 Kazumi Kimura
早稲田大学、中央大学非常勤講師。英語コミュニケーション研究家。NHK文化センター・英会話講師。上智大学外国語学部英語学科卒業後、三菱総合研究所に勤務し、日本語学校教師などを経て1988年に渡米。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)応用言語学部で英語教育学の修士号を取得後、サンタモニカカレッジなどで日本語を教える。1996年に帰国後は、東京外国語大学、慶應義塾大学、東京女子大学などで英語や第二言語習得、コミュニケーション、リスニングなどを教える。アメリカ生活で経験した英語の文化や価値観に基づくコミュニケーション術「ポジティブ・イングリッシュ」を提唱し、英語のほめ言葉が持つパワーを日本人に紹介している。著書に『ポジティブ・イングリッシュのすすめ』(朝日新書)など。