オリンピック特需もあり、ここ数年、都市部を中心に大規模な再開発が続いてきました。一方で、歴史的に重要な建物が保存されないという問題も発生しています。日本はすでに成熟国家なはずですから、古いビルをあえて残すことで、これを経済的利益につなげられるはずですが、なぜ、うまくいかないのでしょうか。

兵庫県尼崎市内にある洋風建築「ユニチカ記念館」が解体の方向で検討が進められていることが明らかとなりました。ユニチカ記念館は、同社の前身である尼崎紡績の本社として1900年(明治33年)に建てられたもので、国の近代化産業遺産にも選定されています。

兵庫県尼崎市のユニチカ記念館。写真:山梨勝弘/アフロ

建物を所有しているユニチカは、当初、リニューアルを計画していましたが、耐震工事に4~5億円の費用がかかることが分かりました。市民からは存続を求める声が上がっていますが、尼崎市も財政難から資金を捻出できず、このままでは解体されてしまう可能性が高いとのことです。

 

東京の神保町では、90年にわたって街を見守り続けてきた旧相互無尽会社(神保町ビル別館)の解体が始まりました。現在の所有者は隣の土地と合わせて新しいビルを建設する予定ですが、趣のあるビルですから、一部から解体を惜しむ声が上がっています。

近年、日本では歴史的建造物の取り壊しが急ピッチで進んでいます。

東京都港区の赤坂には、世界的な建築家として知られた丹下健三氏が設計し、文化的な価値が高いとされた「赤坂プリンスホテル」が建っていましたが、築29年であっけなく解体されてしまいました。

日本モダニズム建築の傑作といわれた「ホテルオークラ東京本館」も取り壊され、すでに高層ビルに生まれ変わっています。オークラの取り壊しについては、各国の文化人らが反対を表明するなど海外でも話題となりましたが、計画は予定通り実施されました。

京都市では、歴史的景観の保全を目的とした建物の高さ規制について、市が緩和する方針を打ち出したことが波紋を呼んでいます。オフィスや住宅の開発を促進することが目的とのことですが、美しい景観が損なわれることを危惧する声が上がっています。

建物の取り壊しが問題になると、決まって「経済成長のためにはやむを得ない」「日本は地震国なので解体は当然」「高温多湿な日本の気候は諸外国とは違う」「文化遺産の保存と経済は両立しない」といった意見が出てくるのですが、これらはすべて誤った認識に基づいています。

建造物を建てては壊すといった、いわゆる新規の建設需要で経済を回すのは、かつての中国など発展途上国が採用する成長モデルです。先進国の場合、古い建物を活用することで、そこに付加価値を生み出す成熟型モデルを採用した方が圧倒的に大きな利益を得られます。

 
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