ロンドンではテムズ川のほとりに廃墟として放置されていた発電所がリニューアルされ、大規模なオフィスやレジデンスとして生まれ変わりました。ニューヨークの超名門ホテルであるウォルドルフ・アストリア・ニューヨークは、建物の美観維持を条件に投資家に高値で売却されています。古いものをそのまま生かすだけで大きな富を創出できるのは、文化遺産が多い先進国ならではの芸当といってよいでしょう。

再開発計画が進められていた頃のロンドン・バタシー発電所。その印象的な姿はピンク・フロイドの’77年作『アニマルズ』のアルバムジャケットをはじめ、数々のアートワークや映像作品で使われている。写真:New Picture Library/アフロ

確かに日本は地震国ですが、それを言うなら米国のカリフォルニアやイタリアも日本に匹敵する地震多発エリアですが、古い建物がたくさん残っています。高温多湿というのも日本だけの話ではなく、米国にも日本並みの気象条件の州はたくさんありますが、建物の保存が出来ないという話は聞いたことがありません。

 

日本にも先進諸外国と同じように活用できる資産がたくさんあるのですが、残念ながら、こうした資産を生かそうという方向には進んでいません。日本は特別なので、諸外国のようにはいかないというのは、完全な思考停止といってよいものです。

実は90年代までは、日本でも文化的な遺産を保存し、これを経済的利益につなげようという動きがありましたが、2000年以降、こうした動きは一気に萎んでしまいました。最大の理由は、経済の落ち込みでしょう。

先ほど、先進国は文化遺産を有利にお金に換えられるという話をしましたが、それは、豊かな成熟社会を実現した後の話です。本来であれば、日本もすでにそのような国になっていたはずですが、バブル崩壊以降、日本の成長率はあまりにも低く推移したことから、相対的な豊かさは先進諸外国の3分の2から半分に落ち込んでしまいました。

今回のユニチカのケースも、たった4億円の費用が捻出できないという話ですから、結局のところ、文化遺産で利益を上げる前に、社会が貧しくなってしまったということに他なりません。しかしながら、目先の利益を優先した経済運営を続けていると、最終的には大きな富をもたらすはずの貴重な文化遺産をすべて失ってしまいます。

近年は、あまり成長しなくてもよいという意見も耳にしますが、筆者はそうは思いません。健全な経済成長ができなければ文化は衰退し、結果的に文化で利益を上げることもできなくなってしまうのです。
 

前回記事「夏の夜空に「火球」がたくさん目撃されているワケ」はこちら>>

 
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