米倉涼子さんが見た、最新のおすすめエンタメ情報をお届けします。
今回は、韓国のベストセラー小説を映画化した『82年生まれ、キム・ジヨン』を紹介します。小説は日本でも話題になったそうで、確かに韓国だけではなくどの国の女性にもあてはまることが描かれている映画だと思いました。……とはいえ、私にはキム・ジヨンのように会社員として働いた経験がないので、読者の方たちの感想を聞いてみたくなった作品でもあります。
主人公は、２歳の娘の育児や家事に忙しい日々を送りながら、ときどき他人が乗り移ったかのような言動をするキム・ジヨン。例えば夫の実家に帰省したときに義母に向かって「正月くらいジヨンを私の元に帰してくださいよ」と、自分の母親が思っていそうなことを言ったりするんです。でも彼女自身はそのことに気づいていなくて、夫は妻に真実を告げられず、精神科医の元を訪ねます。
キム・ジヨンは弱い人ではなく、仕事のスキルも落ち着いた賢さも持っているように見えます。そんな彼女がなぜ心のバランスを崩してしまったのか、はっきりとした理由は提示されませんが、過去にあったことが描かれるなかで、弟ばかりを大切にする父親への思いや、夢を持って入った会社で男性が優先され、結婚、出産で退職したことなどがわかってきます。そして再就職をしようとすれば、義母から嫌味を言われたり……。
こういう問題は昔から当たり前のようにあることで、しかもジヨンの夫は決してひどい人ではなくて妻に対する思いやりも持っている。だからこそ彼女は自分の辛い気持ちを誰かにぶつけることは大げさだと感じ、少しずつ内側から壊れていったのかもしれません。
結婚、出産、仕事とすべてにおいて、女性の人生の選択肢が増えたのはもちろん素晴らしいこと。でもそれゆえの苦しみも増えている気がするし、女性の生きづらさを声に出せる世の中にはなったけれど、その先で何をもってして解決とするのか？そう考えるとすごく難しい問題ですよね。この映画をきっかけに社会を変えていくことへの意識がさらに強くなったり、「自分にとっての幸せの形はなんだろう？」と考える人も多いんじゃないかなと思いました。
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『82年生まれ、キム・ジヨン』
10月9日（金）より 新宿ピカデリー他 全国ロードショー
結婚・出産で仕事を辞めたジヨンは、誰かの母であり妻である状況の中、まるで他人が乗り移ったような言動をとるようになっていた。夫のデヒョンは心配するが、本人は「ちょっと疲れているだけ」と深刻には受け止めない。ある日は夫の実家で自身の母親になり文句を言い、ある日はすでに亡くなっている夫と共通の友人になり、夫にアドバイスをする。――その時の記憶が一切ない妻に、夫は傷つけるのが怖くて真実を告げられず、ひとり精神科医に相談に行くが……。
配給：クロックワークス
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構成／片岡千晶（編集部）
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