なんでも言うことを聞いてくれる真面目な夫。でもそんな夫がストレスに……


真行さんの旦那さんは真面目に働き、お給料はすべて家庭に入れ、決められたお小遣いの中でやりくりし、常に穏やかで、お願いしたことはやってくれる人。

一見パーフェクトな人に見えますが、なにが悩みの種だったのかというと、休日の過ごし方・家族のイベント・子供の教育方針・家の購入に至るまですべての提案をするのは妻の真行さん。提案に対して夫は反論せず、すべてイエス。悩みごとを話しても「そうですか」の一言。複雑な相談になると石のように固まってしまい、いつもひとりで答えを模索しなければいけませんでした。

こんな調子だったため、夫と一緒に暮らしていても、家族としてエピソードを「分かち合う」感覚は持てずにいたそうです。しかし、真面目に働き自分の言うことをなんでも聞いてくれる夫のことは、まわりに相談しても「いい旦那さんじゃない」と言われてしまい、悩みを理解してもらうことはできません。

さみしさと、夫への嫌悪と怒り、そして自責の念により心のバランスを崩してしまった真行さんは精神科を受診。うつと診断され、仕事も3年休職することになってしまいました。そんなある日、発達障害について調べて行く中で「カサンドラ症候群」という言葉を知り、まさに自分がカサンドラなのだと気づきます。

夫に医療機関を受診させようとするも、混み合っていて予約が取りにくく、初診までに数ヶ月待つという状況。当時の真行さんは診断までに半年にも及ぶ期間には耐えることができず、発達障害について知識があるカウンセラーの「夫婦カウンセリング」を選択しました。そこで数回のセッションを受けた後、「あなたの夫は、生活にも夫婦関係においても困っていません。このままカウンセリングを続けても、夫は変わらないと思います」と告げられます。

 


「改善を試みる妻と、それに向き合えない夫」の構図がカサンドラを生む


真行さんの家庭のように、旦那さん本人が困っておらず、妻がひとりで夫を改善させようと悩んでいる場合にカサンドラが生まれます。カサンドラ症候群からの回復には「お互いが向き合い歩み寄る姿勢」が重要なポイントです。

実際に、発達障害のパートナーとよい関係を保っているカップルには以下のような共通点があるそうです。

①夫の、自分には発達障害特性があるという自覚
②妻の、発達障害への理解および夫への適切な対応
③よい関係づくりに向けて夫と妻が努力していること
④悩みを「家庭」のみで抱え込んでいない。周囲の理解とサポートがある
⑤夫の受診、正確な診断、その後の医療機関等でのサポート

(『私の夫は発達障害?』より)


カサンドラからの回復には、夫婦の歩み寄りが不可欠。そのため、夫にその姿勢が見られない場合は思い切って「夫と距離をとる」選択も必要です。

 

カサンドラに陥った妻の多くは、がんばり屋で我慢しがちな傾向にあります。夫婦関係の「継続」にこだわるのではなく、ふたりの関係の「質」にこだわるというのもひとつの選択です。

次回は、同じく『私の夫は発達障害?』より、夫との距離の取り方の落とし所を見つけ、カサンドラ症候群から回復した方のケースを紹介します。
 

 

『私の夫は発達障害?』
著 真行結子 監修 柏淳(ハートクリニック横浜院長)

発達障害特性のある夫との関係に苦しみ悩む妻。「変わらない夫」とどうやって距離をとり、自分自身の人生を幸せに生きていけばいいのか……。本書では、6組の夫婦のエピソードと、発達障害当事者である夫の体験談を例に挙げ、具体的な回復方法を紹介しています。自らもカサンドラ症候群を体験し、カサンドラ支援団体の代表も務める専門カウンセラーだからこそ伝えられる、苦悩する妻の背中を後押しする一冊!


構成/宮島麻衣

 

第2回「自己中な夫の機嫌を伺う日々は限界…「発達障害別居」の一部始終」は10月26日公開予定

 
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