若さを買える時代がやってきた?
早希と絵梨香は大学時代の同級生だ。出会った時は18歳だった。
お互いもっと顔が丸くて、眉毛が細かった。冬でも生足が当たり前だったし、遠慮せず肌を露出してミニスカートにロングブーツで渋谷を闊歩していた。
あの頃は自分が「おばさん」になるなんて知らなかった。いや、知ってはいたが想像できなかった。
あまりに遠い未来だったし、今を消費することに夢中で、若さが有限であることに思いを馳せる必要も余裕もなかったから。
「年齢なんかただの数字でしょ。大事なのは見た目」
“40歳”の壁に怯える早希に向かって、しかし絵梨香は事もなげに言い切る。
敏腕PRとして外資系ラグジュアリーブランドを渡り歩いた絵梨香は、32歳で随分年上の投資ファンド経営者と結婚した。「子供は要らない」と宣言し自由なDINKSライフを送る傍ら、現在はフリーで化粧品や美容クリニックのPRを担当している。
実際、アンチエイジングに余念がない彼女の見た目はとんでもなく若い。肌も艶々で、知らなければ「30代前半ですか?」と尋ねてしまいそうだ。
「っていうか、絵梨香また若返ったよね。何したの?」
すると彼女は当然のごとく「3ヶ月に1度のレーザーとボトックス。それから半年に1度はフィラーも入れてる」と答えた。まるでヘアサロンでのメンテナンス頻度を話すみたいに。
「やはりもうクリニックに頼るべきか……」
早希自身、自分がこの歳になるまでは、数万円もする美容クリームを買い漁ったり高級エステに通いまくる美魔女たちを半ば呆れ顔で眺めていた。何のためにそこまでする必要が?と疑問だった。
だが、今なら理解できる。
当たり前に享受していた美、そして若さが失われていく恐怖と喪失感……それは女としての自尊心すら奪っていく。だからどうしても、何としても取り戻したくなるのだ。
「今の時代、若さもお金で買える。加齢を恐れる必要なんかないの」
真顔で言ってのける絵梨香に、早希は思わず吹き出した。
「さすが敏腕PR。説得力が違うわ」
近頃、彼女に会うといつも美容ネタに終始するようになった。昔は会えば「最近どう?」から始まって必ず男の話をしていたのに。
28歳の時に早希が婚約までした彼に振られ、絵梨香が新婚早々夫に浮気されたあたりから……どちらも自然と話題にしなくなったのだ。
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