どう見られているかを気にする邪念を全て削ぎ落として

 

「エリザベスは、あまりにイケメンで素敵な人たちに好かれるので、納得していただけるようにならないと(笑)。40代になって、男性に甘えて頼らないように自立していますが、切羽詰まると張り詰めていたものがあって泣いてしまう。わかるなぁって。とても刺さります。現代劇で等身大の年齢の女性を演じることは初めてなので、最初は丸裸にされたようで少し恥ずかしいような感じもありました」

 

ため息混じりに話す柚希さん。エリザベスを分かりすぎるがゆえの悩みがあるようです。その上で、今の自分の中身が本当に大切になるので、意識していることがあるといいます。

「つい自分をうまく、大きく、綺麗に見せたいと思いがちですが、いかにうまくやろうとしないかが今回のテーマだなと思っています。演出の小林香さんも同年代。共に話し合いながら作っているのですが、コロナで全てのことがストップしたときに、お客さまが求めている演劇とは何だろうかと考えたそうです。舞台上で生きている役たちが、いかに笑って、泣いて、苦しんで、葛藤しているかが、お客さまは一番観たいのだから、シンプルに戻ろうと。私も、この作品は私自身が経験、想像してきた、本当にリアルであることを見せていくものだろうと思います。先日まで出演していた『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』では、子役も大人キャストも本当に皆さん素晴らしい方々で、すごいと思われようとしないで見せる演技はすごいなと、より痛感しました。どう見られているかを気にする邪念を全て削ぎ落として、ストンと役としていられることができたら幸せです」

宝塚時代からの長い舞台生活の中で、何度かそういう状態になったことがあるそうですが、それはどんなタイミングで、具体的にどんな心境になったのか伺ってみました。

「本当にただストンといるのに、舞台上にいるとは思えないほど心地いい息の吸い方ができて、いるはずのお客さまが見えないくらいに、物語の風景が見える感触が、何度かはありました。一番感じたのは、『眠らない男・ナポレオン ー愛と栄光の涯にー』のナポレオン役のときです。観客席に市民や兵士たちが沢山いたんです。ナポレオンが頂点から堕ちていくときに、周囲が離れていく様子がすごくリアルに、360度その風景になっているという感覚がありました。もう舞台じゃないみたいで。自分の中から湧き上がってくるものが凄すぎて、むしろそれを抑えようとする。細胞や血管などが生き生きとした感覚がありました」

『眠らない男・ナポレオン ー愛と栄光の涯にー』は、宝塚歌劇団100周年の第一作目で、宝塚から世界へ発信するオリジナル作品を目指した超大作ミュージカルでした。作曲に『ロミオとジュリエット』のジェラール・プレスギュルヴィック氏を招き、名演出家・小池修一郎さんとの日仏コラボレーション。劇団をあげて力を入れた作品で、否が応でも注目を集める公演でした。さらに、もう一作品。

「三年前に、ミュージカル『マタ・ハリ』でマタ・ハリ役を演じたときも、そういう感覚がありましたね。入り込んでいて、『マタ・ハリはこれを言いたいはずだ!』と、彼女の一番の味方になっていましたから。今回も、エリザベスという人を演じているというか、きっとこういう人なんだろうな感じるようになれれば、お客さまも自分のことのように感じていただけるかも。そうなったら、すごいなと思います」
 

前向きに生きるための心の栄養が必要

 

今年、41歳になった柚希さんに、今、人生の何ステージ目だと思うか伺ってみました。

「4ステージ!宝塚に入って第2の人生が始まり、宝塚を退団して第3の人生が始まり、女優になって40歳を超えたくらい、ちょうど、コロナ後くらいから、またひとつステージが変わったような気がします。『こうあらねば』と必死に、全力疾走だったのが、丁寧に楽しんでやりたいと思うようになりました。みんなが、きっとそうだと思いますね。」

人生の第4ステージの先に続く、10年後、20年後未来については、何か考えているのでしょうか。

「少しだけ都会から離れたところに住んでいて、自分がこだわった家を建てている先輩方の話を聞きます。熱海だったら温泉が出るからいいとか。仕事のときは仕事に集中して、オフのときはオフに集中するのも憧れです。住むところにはずっと憧れがあって、モデルルームを見に行くのも、すごく好きなんです。『ELLE』などインテリア雑誌を見るのも好きで、住みやすい空間で、心地よい家で、最高な人々に囲まれて丁寧に生きていたらいいですね」

やらなければいけないことをリストアップして、それをひとつずつ消化するようにこなしていくのは、30代までなのかもしれません。40代からは、自分の声を聞いて、思いを大切に、スローな時間も丁寧に過ごす。今の時代に欠かせない考え方なのでしょう。

柚希さんの呼びかけによって制作された、YouTube動画「Our song for you-また会える日まで-『青い星の上で』」をご覧になりましたでしょうか? 柚希さんが同時期に宝塚を過ごした、元トップスタートップ娘役総勢19名が、宝塚の名曲『青い星の上で』をリモートで制作。165万回を超えて再生されています(2020年12月現在)。緊急事態宣言によって、不自由な生活を送っていた5月29日朝に公開されると、多くの人々がそのポジティブパワーに勇気づけられました。皆さんのその力はどこから来るのでしょうか。

「反響がとても嬉しいです。遠いけれど繋がっている、そんなストーリーになれたらと、ファンの方々や現役の宝塚の皆さんにも届けたいと思って制作しました。むしろ歌っている私たちも感動しながら作ったんです。完成したときには、私も泣きました。ひとつのものを作るときに、一緒にやってきた仲間と、直接会わなくても一緒に過ごしたような、もう一度心が浄化されるような感覚になるのは、すごいなと思いました。やはり、今は大変なことが多いですが、人の心には大切なものがあって、前向きに生きるための心の栄養が必要なんです。宝塚の皆さんだって落ち込むし、前向きになれないときもきっとあるかと思いますが、『頑張って生きていくんだ』と前に進んで、ちゃんと立ち上がる。そんなパワーがあるのかもしれません」

撮影/横山順子
スタイリスト/間山雄紀
ヘアメイク/藤原羊二 (UM)
取材・文/岩村美佳
 
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