アートを買ってみたい!わたしが思いたったのは、ちょうど40代に入ったころのこと。ところが、どこからはじめていいのやら……。
なにを買うの、どこで買うの、いくらで買うの、どうして買うの?
洋服や車なら、だれかのレビューがあるけれど、アートとなると頼れるのは自分だけ。ましてや投資のためじゃないとなると、ますます目安がないのです。
なかなか踏み出せなかった、はじめの一歩。さて、わたしはどんなふうに踏みだしたのでしょう?〔ミモレ編集室〕アート部員のえこが、甘酸っぱい初体験の日々をふりかえります♪
アートって、買えるんだ!目からウロコが落ちた日
アートといえば美術館で鑑賞するもの。そう思いこんでいたわたしの目から大きなウロコが落ちたのは、スイスで暮らしはじめたころ。語学学校で知り合ったクラスメイト、ステラのアパートに遊びに行ったときのことです。
まだ年若く、失業中。ランチ代すら切りつめていたステラの暮らすアパートは、スタジオタイプの狭くて質素なものでした。ところが錆びついたドアを開けるなり、目にとびこんできたのは、壁から床から所せましとなべられたアートです。
きけば、ギャラリーに足を運び、コツコツ買い集めたものだとか……。
「わたしのお財布でも、買えるアートってあるんだよ」
わたしが聞きたくてうずうずしていた質問を見透かすように、ステラはあっけらかんと答えてくれました。ところがそんな風にアートを買って楽しんでいるのは、ステラだけじゃなかったのです。
無名の若手作家のオブジェから、新進アーティストのアクリル画、ジャズフェスティバルの歴代ヴィンテージポスターで埋め尽くされたリビングから、はたまた億単位の名画まで!知り合った人たちの家を訪ねてみると扉の先には、それぞれのテイスト、フトコロ事情に応じたアートが隠されていました。
何よりいいなぁと思ったのは、所有するアートについて話してくれるときの熱っぽい語り口。老若男女、所有するアートはそれこそ千差万別なのに、皆揃いも揃って「恋する乙女」のような口ぶりになってしまうのが、なんともかわいくて……。
わたしもアートを買ってみたい!そう思いはじめるまでに、時間はかかりませんでした。
アートを買う。はじめの一歩は、ある日突然に
ところが、です。
「買ってみたい」はいいけれど、何を買いたいのかさっぱり見当がつきません。鑑賞するだけなら気楽に楽しめるのに、買うとなると何かがちがうのです。そもそもアート通なわけでもないし、センスがあるわけでもなし。
おまけにアートギャラリーもオークションも、とてつもなく敷居が高くみえて、時間はいたずらにすぎてゆきました。
そんなわたしのはじめの一歩は、ある日突然にやってきます。
じつは古い絵本が好きで、ときどきスイスのオークションサイトをのぞいていたわたし。大好きなスイスの絵本作家フェリックス・ホフマンのリトグラフなるものが、絵本に混じって出品されているのを見つけたのです。
フェリックス・ホフマンの絵本といえば、わたしは当時母がとってくれていた定期配本で親しんできたクチ。「ラプンツェル」や「ねむりひめ」、「おおかみと七ひきのこやぎ」などは見覚えのある方も多いのでは?とおもいます。
そのときわたしがのぞいていたのは、サザビーズやクリスティーズなどの敷居の高〜いオークションサイト、などではもちろんなく、いらなくなったベビー服や家庭用品を売買するようなメルカリ的なサイトです。
つまり、かなりハードルが低い。しかも、気になるお値段も日本円にして数千円。ポチッといくのにさほど勇気はいりませんでした。
じつは、フェリックス・ホフマン。絵本の挿絵以外に、優れた版画、壁画、ステンドグラスなどを作品として多く残しています。同じころ活躍した「ウルスリのすず」のアロイス・カリジェに、「こねこのぴっち」のハンス・フィッシャーも然り。
まめにアートギャラリーやオークションをチェックしていると、こうした絵本作家たちのリトグラフなどの作品をみつけることができるのです。
リトグラフとは、石版画のこと。一点ものの油絵などとはちがって手がとどく価格のものが多く、初心者には手を出しやすかったのも幸いでした。以来、わたしは絵本を集める感覚で、スイス人絵本画家たちの作品を少しずつコレクションするようになります。
と、こんな風にして、「アートを買う」」はじめの一歩を踏み出したわたしなのですが、こうしてふりかえってみて面白いなぁと思うのは、そのきっかけが、もともと「好き」なこと(絵本)の延長線上にあったこと。
「アートを買ってみたい!」と気負っていたときには、あんなに難しく思えた「何を買う?」の答えは、探し求めていた「外」の世界にではなく、すでに自分の「中」にあったのでした。
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