② 命の恩人に会いに行くこと

私がシャバに戻って一番にしたかったのは、命の恩人たちへのお礼参りです。
まっ先に向かったのは、救急搬送された駅。改札口にいた駅員さんに会いに来た事情を伝えたところ、「失礼ですがあの時のご本人ですか? 元気になられたのですね。よかった!」と熱烈歓迎。すでにそこからジーン。
事務所に案内されると、マイヒーローの駅員さんをはじめみなさんに「良かった、ほんとに良かった」といっぱい声をかけていただき、ウルウルが止まりませんでした。
感謝を伝えると、「どこの駅でもリスクを意識し、乗客のみなさん全員が快適に安心して電車を利用できるよう取り組むのが日常のミッションなので」とかっこ良すぎです。
今までは車内での「お客様の救護のためお時間をいただいております」といったアナウンスは他人事でしたが、今は「ゆっくりどうぞ。ありがとうございます」という気持ちに変わりました。

私が車内で卒倒した時に、救急車を手配してくれた女性の乗客の方も探し当てることができました。お礼に伺うと、「目の前に座っていた人が突然に椅子から転がり落ちた姿を目撃したら、誰でも119番通報したと思います」と話してくれました。
でも、自分だったら冷静に対処できたかどうか、自信はありません。

救急病棟の先生の元へも伺いました。あの日、「五分五分より分が悪い。たとえ生き残っても意識が戻るかわからない。意識が戻ったとしても障害が残る可能性が大きい。ですが、希望を捨ててはいません」と冷静に家族を勇気づけてくれたのです。
「私たちはやるべきことをやっただけ。いろんな運が重なって命が救われたのはあなたの宿命です。これから社会貢献して恩返ししてください」というメッセージをしかと心に刻みました。


③ 食べたいものを食べる、好きなだけ酒を飲む。

規則正しい時間も食事も管理されていた入院生活で、足りなかったのは猫と酒と体に悪い食べ物でした。退院後には、胃もたれ必須の揚げ物料理を食べまくり、4キロ減った体重は6キロ戻りました。

 

入院生活を経験し、「死ぬまでに限られた食事だから、一食たりとも無駄にできない」と健康管理より、好きなものを食べられる幸せが勝りました。
ですが、今は我に返って、メリハリをつけて栄養指導を受けた食事を意識しております。飲み放題&食べ放題じゃダメなんです。

 

蘇らなければ、テレビのスイッチをプチっと消すみたいに、ブレーカーがバチッと落ちるみたいに、人生は一瞬で終わっていました。きっと自分が死んだことにも気が付かないまま、永遠の眠りについていたでしょう。

そこにあったのは無の世界。いや世界すらない無。

死はリセットではなく無だと知る体験でした。いままでは自分一人の力で生きているつもりでしたが、蘇り体験を通してたくさんの人に助けられて、生かされていると感じるようにもなりました。
今という時間を大切にしなければというこの気持ち、うっかり忘れないように過ごしていきたいです!

『山手線で心肺停止! アラフィフ医療ライターが伝える予兆から社会復帰までのすべて』
熊本美加・著 上野りゅうじん・漫画 鈴木健之・監修 1320円 講談社

毎年の健康診断では「問題なし」だったアラフィフの医療ライターが、ある朝、山手線で心肺停止に。予兆はなかったのか? その時、生死を分けたものとは? その後、高次脳機能障害となるもリハビリを経て仕事復帰するまでをまとめた「蘇りルポ」をコミック化。主治医の監修付きで実用書籍にしました。自分と大切な人のために、読んでおきたい一冊です。


文/熊本美加
構成/片岡千晶(編集部)
この記事は2020年12月17日に配信したものです。
mi-molletで人気があったため再掲載しております。

・第1回「山手線内で心肺停止!即死を免れた医療ライターが2週間前から感じた予兆とは?」>>

・第2回「電車内で心肺停止…脳の機能障害になった女性医療ライターの入院&治療ルポ」>>

・第3回「心肺停止、脳障害から蘇った医療ライター「倒れた後の入院&治療のリアル」」>>

・第5回「心肺停止から蘇った医療ライター「仕事復帰までの道のり、退院後の生活で困ったこと」>>

 
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