ファッションも人生も価値観が変化している真っ最中

コート/ユニクロ+J ワンピース/ユニクロ ブーツ/20年以上前のエルメス

「たとえば穿きやすくてシルエットが綺麗、かつコスパもいいパンツがあったら、以前は“神パンツ”とかいって、色違いや同じ色を買いだめしていませんでしたか? それは、何本買っても穿いていく場所があったからですよね。でも今は1本買えば十分で、もう1本買うのは来年の“神パンツ”が出てくるのを待った方がいいかもしれない。来年になったらトレンドがどうなっているか分からないから。

それなら少々値が張るものの、トレンドを問わないような定番を買えばいいかというと、それも実はちょっと違うんです。たとえばコートでいうと、私も以前は高いカシミア素材のものをたくさん持っていたけれど、結局どれも着なくなってしまいました。なぜなら昔のカシミアは重いんですよ。それに時代を経るとやっぱりシルエットが古いと感じるようになる。皆さんの夢を壊すようで申し訳ないのですが(笑)、ベーシックなものほど危ないんです。だから今“永遠の定番”だと思って買ったものは、5年のうちにたくさん着てね、と言いたい。もって10年がいいところかな。高いものは長く着られる、という“高い服信仰”はもう終わり。

だからといって、もうお買い物をしない方がいいというわけではありません。今まで私たちは作りすぎ、買いすぎだったんだと思うんです。そうしたアンバランスさを、本来のあるべき状態に戻していくこと。つまり洋服も時代に応じてアップデートしていくけれど、その取り入れ方を見直していこうよという時代に今きているんじゃないかと。そして、こういうテンションの低いときでも欲しいものというのは、それこそ値段に関係なく、自分にとっての定番になりえるんじゃないかしら」


ファッションに限らず、人生全般においても価値観の変化が起きているように思うという地曳さん。
「これまでは、いい学校を出て一流の会社に勤めて……と敷かれたレールに乗っていれば一生安泰だと言われてきました。それが、一筋縄ではいかない時代になってきて。「男だから、女だから」とか「〇〇だから」とかいう枠やしがらみの中である意味守られ、そこで心地よく生きてきた人たちにはしんどい世の中になってくるかも。逆にいうと、ルールに縛られずに物事を自由に考えて動ける人には、生きやすい世の中になるような気がします」

どんなに緻密に先の計画を立てていても、自分一人の動きだけではどうにもならないことが誰にでもあるもの。まして今は先の見えない時代。だからこそ、この先何が起きても対処できるように、何事も完璧に備えすぎずに余力を残しておくというのが、これからの不透明な時代を生きる秘訣なのかもしれません。

 


“小さな幸せ”が自分を支える糧になる


「こんな時代だけに、不安でいっぱいになってしまって、うつっぽくなってしまっている人が増えているそう。私も今はまだサナギの中にいるような状態です。でも、今はこれまでの生き方においてバランスが崩れていたなと思うところを考え直し、“リブート”するにはいい機会。パソコンだって調子が悪いときには再起動して、再び一からやり直しますよね。それと同じで、私たちも今は一度リセットし、来るべき何かのときのために力を蓄えておくべき時だと思うんです。だから、うつになってもいいし、“大丈夫じゃなくて大丈夫”。なぜなら、今は世の中全体が外れくじを引いているようなものなんだから(笑)。

それと気分を上げるポイントは、日々の“小さな幸せ”を見つけておくこと。私の場合は、ベランダに植えた植物やメダカの世話をすることだったり、韓流ドラマでロマンスを補充することだったり(笑)。華やかなイベントに出かけてキラキラな日々を過ごしていた頃とは全く違う暮らしをしていますが、今はこれが私のニューノーマル。小さなことにも感謝できるようになったくらい、感性もリセットされたように思います。

今までは、誰もが“頑張れ”という魔法や“若見え”の呪いにかかっていたのかもしれません。でも、いずれその魔法や呪いが解けるときがやってくる。それまでは焦らずに、『若見えの呪い』で笑って免疫力を上げ、『ひびコレ』で楽に生きるためのヒントを見つけていただければ幸いです」

 

『若見えの呪い』
 著 地曳 いく子
定価 580円(税別)集英社

“目指すは経年美化”、“若見えより今見えが大事”など、イタいおばさんではなく、美しくかっこいいおばさまになるための金言が詰まった、アラフォー以上の女性のためのおしゃれ指南書。いまの時代にシンクロした着こなしやメイク術、バブル世代の悩みに応えるQ&Aなど、笑いながら読み進めるうちに冷静な観察眼も身に着くこと必至の一冊。

 

『日々是混乱 これが私のニューノーマル』
 著 地曳 いく子
定価 1400円(税別)ホーム社

「BBA(ババア)の日常を絵日記のように綴ってみよう」と、2019年にはじめたウェブ連載をまとめて単行本化した最新刊。ファッションや話題のドラマ、音楽、旅行、グルメ、友情などをテーマに、ニューノーマル時代の楽しみ方を前向きに探ります。コロナ禍にあって今までの自分を見つめ直し、新しいパラダイムに生きるためのヒントが見つかるはず。

撮影/杉山和行 取材・文/河野真理子
 
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