わざわざ「BLドラマです」と言わなくてもいい時代が来ればいい


――ただ、ここでまたひとつ感じた自分の中の戸惑いの話をさせてください。以前、藤崎さんのことを原稿内で説明するとき、アセクシュアルやアロマンティックと表記してはいけない気がしたんです。なぜかというと、彼女自身がはっきりそう名乗ったわけではないから。本人が公言していないものに対し、他者が「あなたはアセクシュアルなんだね」と勝手に決めてしまうことが、なんだか怖かったんですよね。

吉田 まだ日本ではアセクシュアルやアロマンティックという言葉自体が海外と比べてもそこまで浸透していないというのもあって、自分がそれだと言い切れない人もいると思います。今は恋愛に興味がないと思っていても、もしかしたらそれはそう思える相手に出会っていないだけかもしれないですし。だから、そうやってラベリングしてしまうことの暴力性というのは私もよくわかります。

©豊田悠/SQUARE ENIX・「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」製作委員会

――そこにつながるところでもあるのですが、『チェリまほ』もそうですし、その他の男性同士の恋愛を描いた作品について記事で言及するときも、原則としてBLという言葉は使わないようにしているんです。これはあくまで僕の個人的な意見ですが、BLという言葉はちょっと性的なイメージが強くつきすぎている気がして。

 

プライベートでBLという言葉は普通に使います。だけど、不特定多数の人たちが見る記事内で、BLとラベリングすることに引っかかりを覚えるというか。わかりやすくBLとジャンル分けすることで逆に目を向けてもらえなくなっている層がいるんじゃないかなと。僕はできればもっとフラットに、多くの人に作品を楽しんでもらいたくて。編集さんが見出しでBLとつける分には抵抗はしませんが、本文内ではBLではなく、シンプルにラブストーリーと書いたり、男性同士の恋愛を描いた作品という事実の表現におさめるようにしています。

吉田 わかります。もちろんBLを好きな方たちの好きという気持ちを否定するつもりはありません。ただ、BLというジャンルに抵抗感を持っている人がいるのもわかる。だから、私もTwitterで宣伝するときにBLという言葉は使っていません。何か新しい言葉があればいいのにな、とは思います。

女性がされて嫌なことがあるように、男性もされて嫌なことがある。今そういう認識が少しずつ広まりつつありますよね。それをちゃんと世の中に浸透させていくには、当事者が声をあげていくしかなくて。だけど、声をあげた人に対して暴力が向いてしまうことがあるのも今の社会の現実。だから、その人たちに代わって声をあげていくことが、ドラマのつくり手である私たちの役割なんだと思います。

少なくとも私はそうやってフラットな世の中をつくっていきたいし、あと10年もしたらわざわざ「BLドラマです」と言わなくても、「また次のクールで新しい恋愛ドラマが始まるんだ」「主演は俳優の◯◯くんと△△くんなんだ」と何でもないことのように受け止めてもらえる社会にしたい。今はまさにその過渡期で、そこに向けてのステップをひとりの書き手として築いていきたいと考えています。

<作品紹介>
木ドラ25「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」

童貞のまま30歳を迎えた安達(赤楚衛二)は、「触れた人の心が読める」魔法を手に入れる。ひょんなことから営業部エースの同期・黒沢(町田啓太)の心を読んでしまうと、心の中は自分への好意でいっぱいで……。爽やかイケメンから拗らせ童貞への、一途な恋の行方は?! 最終回は12月24日(木)深夜1時30分放送(一部地域を除く)。

番組公式HP:https://www.tv-tokyo.co.jp/cherimaho/ 
公式Twitter:@tx_cherimaho

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取材・文/横川良明
構成/山崎 恵