価値観が急速に変容する現代社会を、私たちはどう生きていけばいいのか。エンタメ界のトップランナーと対話を重ねながら、考える機会をつくる本連載。第1回にご登場いただくのは、『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(通称:チェリまほ)が話題の脚本家の吉田恵里香さんです。

エンターテインメントとポリティカル・コレクトネス(社会的な差別や偏見をなくすこと)のバランスについて。前編に続き、後編でもじっくり対話を重ねていきます。

 

前編「沼堕ち続出ドラマ“チェリまほ”の多様な世界はどうやって作られたのか【脚本家・吉田恵里香さん】」はこちら>

©豊田悠/SQUARE ENIX・「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」製作委員会


「かわいい」という言葉の暴力性


――『チェリまほ』の配慮が行き届いたドラマづくりに感動する一方で、自分自身の短慮さに目が向くというか。僕は、記事を書くときこの表現はいいのかなと思いつつも、ついわかりやすさや面白さをとってしまうことが多くて。見た目のいい俳優さんに対してイケメンとキャッキャすることとか、どれくらいまで許されるんだろうという恐怖心は年々強くなっています。

吉田 私自身、ここ数年、特に興味のあるテーマが、ルッキズム(見た目で人を評価すること)とジェンダーをこえたフラットな生き方で。なるべくドラマの中でも簡単に人のことを「カッコいい」とか「かわいい」と言わないようにしています。言うからには、言われた人が美に対してこれだけ努力している人なんだということを見せるとか、そういう工夫が必要で。『チェリまほ』でも付き合うまでは黒沢(町田啓太)に安達(赤楚衛二)のことを心の中でも「かわいい」と言わせないようにしました。

――気づかなかったです。

吉田 「かわいい」という言葉の暴力性というのもあるじゃないですか。言われてうれしい人もいれば、言われたくない人もいるし。特に男性の場合は、その人がなりたい像と離れていれば、悪口になってしまう場合もあるので。付き合ってから言う分には、その「かわいい」にいろんなことが込められてくるからまた話は違うんですけど、それまでの間はやめようと。

©豊田悠/SQUARE ENIX・「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」製作委員会

――ルッキズムで言うと、原作でも登場するエピソードですが、第7話で黒沢の見た目がいいことによる苦悩を描いたのが、すごく良かったです。

吉田 構成の段階から7話は黒沢の目線だけでやろうと決めていたので、私もやれて良かったです。(黒沢役の)町田(啓太)さんだから違和感がないというか。ご本人とお話をしたことがないのでわかりませんが、役者さんが抱える悩みのひとつかなという気はしました。

『チェリまほ』では見た目の話になりましたが、たぶんいろんなことに置き換えができる話ですよね。「若いから得してるよね」「女だから得してるよね」「実家住まいだから得してるよね」「両親が金持ちだから得してるよね」。そんなふうに言われてきた人ってたくさんいると思います。もちろん自分が恵まれていることぐらいはわかっている。だけど、他人からそう決めつけられることに苦しさを感じることもあると思うんですよね。

おこがましいですけど、『チェリまほ』ではどれだけの人に寄り添えるか挑戦したいという気持ちがあって。これだけ純愛を真正面からやれる作品だからこそ、とことん優しい世界をつくりたいというのが、私の目標でした。