モデルとして、テレビ出演やラジオパーソナリティとしても活躍中の浜島直子さん、愛称“はまじ”。44歳の彼女が、ファッション、ビューティ、ライフスタイル、さまざまなジャンルで新しい自分を発見していく連載です。

初の随筆集『蝶の粉』を上梓したはまじ、そして初のメッセージ本『飽きる勇気 好きな2割にフォーカスする生き方』を発表した大草ディレクター。ふたりが参加して行われた六本木 蔦屋書店のZoomイベントでの対談。参加できなかったという方からのラブコールに応えて、特別に対談を掲載します! 

「直子」という名前を始め、共通点の多いふたりの息の合った爆笑対談をぜひ堪能ください。

 


「『飽きる勇気』というタイトルは私への挑戦状!?と思った」(はまじ)

 

はまじ:浜島直子と……

大草:大草直子でーす。

はまじ:ダブル直子です。ふたりとも直線の直で直子(笑)。

大草:私も直線の直子って言ってたんだけど、最近は素直の直って言うことにしてるの。

はまじ:じゃっ私も素直の直子です(笑)。名前も同じですが、ちょうど本を出したタイミングも近くて。発売してすぐに読ませて頂いたんですが、今日の対談に備えて、昨日また読み返してみたの。

大草:予習、復習を欠かさない真面目なはまじ!

はまじ:私コツコツタイプだから(笑)。もう何度も読み返しているんだけど、その度に何かしらの発見があるのがこの本!昨日は少しお疲れ状態…そんな中救われたのが、39ページの「ひとりで行くお気に入りのカフェや自宅でのコーヒータイムだっていい。一日30分だけでもいい。母でも妻でもなく、ただ自分になれる場所や時間があることは、すごく大切なこと」という部分。手に取るたびに、どんな心理状態でもそのときに必要な言葉が散りばめられた本だなと改めて思いました。

大草:ありがとう。実はそう言ってくださる方がとても多くて。これまでもファッション本はたくさん出させていただいているんですが、『飽きる勇気』はいちばんインスタのコメントやDMが圧倒的に多い。中には「背中を押されて、会社を辞めました」という方も何人かいて。子育てに悩んで自分を責めていたけれど、心が軽くなりましたとメッセージくれた方もいました。私としてもこんなふうに感想をいただくのが本当にうれしくて。

 

はまじ:最初タイトルを見たときに、『これは私への挑戦状⁉』ってドキッとしたんです。というのも、私はさっきも言ったけれどコツコツ続けるタイプ。ラジオ番組『キュリオスハマジ』は11年、テレビ『暮らしのレシピ』は16年続いていて、『世界・ふしぎ発見!』のミステリーハンターも12年、LEEの専属モデルも10年やってたんです。コツコツ長く続けることが多い私にとって“飽きる”って正反対だし、私が読んで大丈夫かなと思ってたんです。

大草:確かに「飽きる」ってインパクトの強い言葉。でも、飽きるというのは、今やっていることを捨てて新しいところに行きなさい、ということでもないんです。だって私自身もエディターとして、スタイリストとして仕事を26年続けている。だから実は仕事に飽きているわけでなく、居場所を変えたり、考え方やアプローチの仕方を変えているだけ。きっと長く番組を続けているはまじもそうだと思うけれど。

はまじ:そう、何も飽きて新しいところへ、ということではないんですよね。でも自分とは対照的に思えた「飽きる」という言葉があったからこそ、すごく興味を持って読みたいと思ったんです。中でも驚いたのは、ミモレをスタートするときには3年で編集長は辞めようと決めていたというところ。私の場合、どんな仕事でも毎回がオーディションだと思っていて。イベントのような1回限りのお仕事だったとしても、『浜島さん呼んでよかったな、また別の機会でもお願いしたい』と思われたいタイプ。最初から3年で辞める決断をしていたというのが、私にとってはとても斬新な考え方だったんです。

大草:ミモレは私個人ではなくプロジェクトで、どんどん成長していかないといけない。そう考えたときに、私にできることは限られていると思ったんです。成長し続けるためには私以外のフィルターも必要だから、私ができることは一生懸命にやって、その後はバトンタッチすることがミモレにとってベスト。私の場合、たとえば最初のコンセプトやメッセージ、ロゴやデザインイメージなどを決めて、道筋を作ることは向いている。まさにタイトルにあるように”好きな2割にフォーカス”したということなんです。

はまじ:その大草さんの考えをちゃんと理解してくれる仲間がいるって素敵ですね。『集中力が切れちゃったのかな』『他に好きなことができたのかな』と残念に思う人もいるかもしれないところを、しっかり大草さんの緻密な毛細血管のように広がている愛情を理解しているスタッフがいらっしゃったんだなって。

大草:そうだね、本当にそうだと思う。でもね、私、苦手と得意の差が本当に激しいのよ。だから、好きで得意な2割は深く狭く厚くで結果を出せるようにして、そのほかの会社のスタッフにお任せしたりアウトソーシングです。

はまじ:得意と苦手の差が激しい(笑)。でも、わかる……!私も身近なところでいうと掃除が苦手。たまたま旦那さんが掃除好きで、ここの掃除にはこのメーカーのこれを使って、というふうにやってくれる人だったからお任せできてるということなんですが。大変助かっています(笑)。

大草:でも、その代わり好きなことや得意なことはしっかりやってるでしょ?

はまじ:そう!お料理は好きだからやってます。たしかに自分の得意分野にぐーっと目線を持っていくと、自分の中に「まだこんなに伸びしろがあったんだ!」と思うことは日常でもありますね。

大草:好きや得意にフォーカスすると、やったことで結果が出る楽しさがあるよね。
 

「私はナイスクラップ派だったんだけどね(笑)」(大草)


大草:本のカバーで着ている黒のタートルはドゥファミリィのもの?

はまじ:本の中の一篇「初恋の手触り」に出てきたドゥファミリィの黒のタートルニット、大切に着ていたけれど、さすがにくたびれてしまって泣く泣く処分しました。カバーのイラストのニットは、実は今日着ている黒のタートルニット。このニットを着て、絵のようなポーズをとった写真をイラストレーターのますこさんに送って描いていただいたんです。

 

大草:そうなんだね。『蝶の粉』のプロローグを読んだときに、「こういうアプローチでくるんだ!」と思ったの。というのは、私はこれまでにも何度もご一緒していてはまじを知っているじゃない? あたたかさとか茶目っ気、ユーモア、頭の良さ、美しさがあり、その一方で知性的で静かな一面も持っている。随筆集でのはまじは静かなキャラクターでいくのかなと思ったら、2番目の「初恋の手触り」で、わーっとはまじの持っているいくつものキャラクターが出てきて、ものすごく引き込まれたの。

はまじ:ありがとうございます。今でも1万円を握りしめて、ドゥファミリィのタートルニットを買いにいった日を鮮明に覚えてるんです。ふわふわと粉雪が舞っている日で、「これから長い恋の旅路が始まるんだろうな」と武者震いしていました。大人の扉を開けて踏み入れてしまったと感じた、そのことを書きたかったんです。

大草:時代の風景としても共感できたんだよね。私はナイスクラップ派だったんだけど(笑)。当時のはまじの気持ちや思いに共鳴して、自分の中の愛しい記憶としてよみがえってきたんだ。同時に母として、20歳の長女や15歳の長男のファーストステップにも思いを馳せてまって。なんだろうなあ、これ映画にすればいいのに?

はまじ:本当に(笑)? 

大草:はまじ主演で(笑)! 

はまじ:(笑)。洋服を入口に書いたのは「初恋の手触り」だけなんですが、洋服の記憶って、私たちの仕事柄なのかもしれないけれど、鮮明じゃないです!?手触りとか色とか生地の厚さ、湿度や匂いなどとても鮮やかに記憶に残るなと思っていて。そんなときに『飽きる勇気』の中で、アニエスベーのレザーカーディガンの貸し借りの話があって、とてもジェネレーションギャップを感じたの。私たちの世代ってわざわざアルバイトして特別な一枚を買って大事に大事に着ていたじゃない? でも今の若い世代はファストファッションも当たり前だし、貸し借りも普通のことという価値観って面白いなあと思って。

大草:そうよね、私たちは“所有”だけど、彼女たちの世代は“シェア”なんだよね。私たちは「よそ様のものはできるだけ借りずに自分で解決しなさい」って母から言われてた世代じゃない?だから、そうじゃない、彼女たちの世代の軽やかさにとてもワクワクして。レザーだから着るほどに自分に馴染んでいくものを、私がまだ会ったことのない娘のお友達が軽やかに、私とは全然違うコーディネートで着てくれて、それこそ私の体温とか湿度を娘だけでなく、お友達にも伝わっているんだと思うと本当に面白いなと。

はまじ:そう思える大草さんの心も軽やか。シェアするって、まさに風の時代だよね。若い世代はもうすでに始まったんだなと。
 

「『蝶の粉』はまるで浜島家のアルバムを見ているよう」(大草)


大草:これから新しい時代が始まっていて、未来はいくらでも新しく作っていけるけれど、『蝶の粉』に書かれているような家族の記憶や思い出って作り替えることはできないじゃない? そういうひとつひとつや、いろんな方から受けた愛情が今のはまじを作っているんだなあと思うと本当に優しい気持ちになれて。

はまじ:私としても、このタイミングで書けてよかったなと思っています。

大草:お母さまのお話もいくつも出てくるけれど、なんて言っていた?

はまじ:最初は「直からの通信簿をもらうかのようでドキドキする」って言ってたんだけど、2~3日経ってから「ごめんね」ってメールが来たの。続けて「自分が何気なく発した言葉が心にひっかかってたんだね、ごめんね、あんまりいいお母さんじゃなかったね」って。でも私は通信簿のように評価したわけでもジャッジしたわけでもなくて、すべてはどこにも起こりうる当たり前のワンシーンを切り取っただけ。ケンカも見方を変えたら何でこんなに好きなのにわかってくれないの?という愛情表現で、愛してるよ、好きだよという言葉にはしてないけれど、同じだよって返信したんです。

大草:そうだね、まさに当たり前のワンシーン。浜島家のお味噌汁の匂いとか1週間に1回のカレーライスとか、絶対に見たことないけれど、はまじのアルバムを見ているようで。同時に自分のアルバムを見ているようでもあったな。

はまじ:『飽きる勇気』も大草さんのお母さまのことが書かれていますよね。風みたいな人で、娘3人がどんなことをしても、否定しなかったって。素敵だよね。私も母としてそうありたいなと思ったんだ。

大草:不登校になったときに言われた母のひと言には本当に救われました。とても公平だったけど、娘3人それぞれ捉え方が違っていて、繊細なセンサーのある妹は傷ついたこともあったみたい。でも、それも親子のリアルなリレーションシップだなと思っていて。今、それぞれが大人になってわかりあたら、それでいいんだよね。ちなみにうちの母、自分が褒められてるものだから、80冊も買ってくれて(笑)。知人に配ったみたい。

はまじ:お母さま、買いすぎ(笑)。


次回は対談の後編。新しい時代のファッション観やコミュニケーションについて大草ディレクターとはまじが語り合います。

 

『蝶の粉』
定価 1300円(税別) 装画 ますこえり

「どうしてだろう、私は正しかったはずなのに」 これらは何ら特別ではない、誰にもで起こりうるささやかなこと。浜島直子、待望の初随筆集。瑞々しい筆致で綴った、 書き下ろし18篇を掲載。

 

 

 

『飽きる勇気 好きな2割にフォーカスする生き方』
定価:本体1300円(税別)
サイズ:四六判 208ページ

飽きることも、変わることも、
自分を愛することも、全部わがままじゃない。

商品開発やイベント出演のオファーが絶えないスタイリングディレクターで、ウェブマガジンミモレのコンセプトディレクターも務める大草直子氏。時代の転換点を⾒据え、「変化することを恐れない軽やかな⽣き⽅」のコツを指南する初の生き方本をこの度刊行しました。

「今の仕事・生き方でいいのかモヤモヤしている」「いつも人と比べてしまう」「子育てに自信がない」など人生に悩むすべての人がラクに生きられるヒントが満載の一冊です。

 

構成・文/幸山梨奈

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