「芝居を楽しいとは思わない」俳優・大倉孝二が、それでも役者を続ける理由_img0

 

ドラマとも映画とも違う、舞台ならではの面白さ。「ひとつひとつ言語化していくのはすごく難しいですけど」と前置きした上で、「やっぱりすごいエモーショナルですよね」と大倉さんは話します。

 

「劇場という空間で、ただ目の前の舞台しか観るものがない。ノンストップで、作品の世界に身を委ねられるのは、ライブならではの面白さ。よくわからない、本当でもないことを、いい大人が鼻水たらして汗を流しながら、これでもかと本気でやっているわけですよ。それを同じ空間で味わっていると、はっと腰が浮いちゃうような瞬間がある。そういう夢中になれる体験ができる場所が、舞台なのかなと」

一度観ただけでは、すべてわからない。いくらでも解釈の余地がある。この『マシーン日記』にもそんな演劇らしい余白の豊かさが広がっています。

「一から十まで説明するような作品もいいとは思いますけど、僕は演劇がそうなる必要はないと考えていて。『あそこどう思った?』と終わったあとに話し合えるのも演劇の面白さですよね。人の好みもあると思いますが、僕は全部説明してしまったら面白くないというタイプ。いろんな不確定だったり、観た人それぞれに委ねられるものがある方が好きです」

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誤解を恐れずに言えば、面白いことしかしたくない


人生100年時代。46歳になった大倉さんにこれからの人生について聞いてみました。

「そんな長く生きていたくない(笑)。まだ人生半ば? いやいや、全然終わってますよ(笑)」

そう再びボヤいてみせたあと、大倉さんは、これからの人生について考えはじめます。

「考えを固めずに、もっと何かに変化できるようにいたい、とは思います。そういった意味ではまだあきらめてはいないですね。何をあきらめていないかわからないですけど、もっと面白いことがしたいなっていう気持ちはあります」

面白いことがしたい。そう自分の考えを確認するように、もう一度、言葉にします。

「要は面白ければいいってことなんですよ。だからもっともっと面白いものに出たい。誤解を恐れずにバッサリ言えば、面白いことしかしたくないです」

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面白いこと。それが、大倉さんの大事な判断基準です。

「昨今って真面目に考えることばっかり強いられるじゃないですか。そんな中でこんな僕でも『人道的に役に立つことをしないまま俺は死ぬのか』とかそんなことを悶々と考えたりするわけです。できないことはないですよ。でも、じゃあ今からそっちに踏み切るのかと言ったら、本当に? となる」

残りの人生を懸けて何をなすか。逡巡の末、出た答えはシンプルでした。

「人道的ではないですが、僕が舞台に立ったりすることで喜んでくれる人がいるなら、それもありなのかなと。楽しんでもらうことが僕にできる少ないうちのひとつであれば、そこはもう少し続けたい。その先のことはわかりません。いつまでも笑ってもらえるかわからないですからね。そこらへんは気をつけています、笑えないやつにならないように」

口調は、相変わらず飄然としていますが、コロナ禍によりエンタメの意義が問われたあとだからこそ、その言葉には、25年間、役者として板の上に立ち続けた大倉さんの想いが見え隠れしました。

「カッコ悪くてもいいんです。ダサくてもいい。だけど、みっともないなっていう感じにはなりたくない。そのへんは思いますね」

自分で言ってから、その真面目な語りに気恥ずかしさを覚えたように、「そんな大々的に太字で書かれたら嫌ですけど(笑)」と茶化した大倉さん。人に楽しんでもらうこと。決してお芝居が楽しいわけではないと言う大倉さんの原動力が、そこにありました。



シャツ/エストネーション(Tel.0120-503-971)

<公演情報>
COCOON PRODUCTION 2021『マシーン日記』

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作:松尾スズキ
演出:大根仁
音楽:岩寺基晴、江島啓一、岡崎英美、草刈愛美(サカナクション)
出演:横山裕、大倉孝二、森川葵、秋山菜津子

東京公演:2021年2月3日(水)~2月27日(土)@ Bunkamuraシアターコクーン
京都公演:2021年3月5日(金)~15日(月)@ロームシアター京都 メインホール

※2/3〜7の公演については、前売り券及び当日券の取り扱いはございません。
※ご来場の際は、当ホームページで最新情報をご確認の上ご来場いただきますようお願い申し上げます。


撮影/塚田亮平
スタイリング/JOE(JOE TOKYO)
ヘアメイク/山本絵里子
取材・文/横川良明
構成/山崎恵
 
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