シングルマザーとしてハードスケジュールな日々

 

──努力が実り、夢に向かって順風満帆なスタートを切りましたね。

高木 そうですね。ただ、プライベートでは32歳で離婚し、私がきちんと稼いで子どもを食べさせていかなくてはならなくなりました。午前2時半に起きて、スタジオに行って仕込みをして、6時にいったん家に戻って子どもとしっかり朝食をとって、また出かけて……ハードスケジュールでした。

それでもまず、料理は楽しくやるということが基本中の基本ですから、それは忘れなかったし、実際、やる気がみなぎっていて私は楽しかったんです。

 


──それなのに、料理塾にとってコロナは痛手でしたね。2020年はコロナだけでなく、いろいろな災難に見舞われたとのことですが……。

高木 まず、最近まで住んでいた沖縄で空き巣に入られました。ブランドバッグを根こそぎ持っていかれたんです。でも、この事件をきっかけに、ブランド物に対する興味がなくなり、持っていかれたものなんてどうでもいいと思うようになりました。
モノへの執着がなくなってしまったんです。

次に、ちょっとした知り合いに、私の人脈や仕事の実績を悪用されそうになりました。大変巧妙だったために私は洗脳されかかったのですが、私の身内が気づいて止めてくれました。
多少は金銭も払ってしまいましたし、何より利用されていたということがショックでした。でも「世間にはいろいろな人がいるのだと知った、あれはその授業料だったのだ、実地の勉強だったのだ」、と気持ちの整理をつけ、もう何とも思っていません。

そしてコロナです。大勢の生徒さんと対面でレッスンすることはできなくなりましたので、スタジオは当分閉めざるを得なくなりました。
がっかりしましたが、でも、オンラインがあるじゃないか、動画で見せればいいのだと気づいたんです。動画用の照明を揃えたり、メニューやわかりやすい手順を考えたり、また忙しくなりました。

 

このように、空き巣に遭っても、知り合いに利用されかかっても、そしてコロナ禍さえも前向きにとらえて乗り越えていくゑみさん。オンラインの料理教室も軌道に乗り、さあ、また楽しくやりましょうと気合が入った、ちょうどその頃、腰に違和感を覚えました。

肩コリと腰痛なら、それまでもしょっちゅう起こっていたのです。まさか、悪いのは腰ではなく肺だとは思いもしませんでした。しかもステージ4の肺がんで、既に頸椎や胸椎、リンパ節、腎臓、脚、そして脳にも転移していたとは──。

末期の肺がんを宣告されたときのこと、治療や入院生活については
後編「末期がんを患う35歳の人気料理研究家『人生のどん底からの抜け出し方』」>>

取材・文/こみねあつこ
構成/片岡千晶(編集部)
 
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