昨今、少しずつ知られるようになってきていた「HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)」と言われる人たちの存在。感じる力が強く疲れやすい悩みを抱える一方で、小さな幸せに気づきやすいという良さも。HSP専門カウンセラーで、著書である『繊細さん』シリーズがベストセラーとなっている武田友紀さんに、コロナ禍の今、繊細さんたちが生きやすくなるコツを教えてもらいました。
――コロナ禍によって多くの人が、これまで経験したことのない長期間のストレスにさらされています。繊細さんたちはこの状況をどのように感じているのでしょうか?
武田 コロナ禍そのものは大変ですが、人と人との距離が開くことでラクになったという声をよくききます。たとえばテレワークが増えたことで、不機嫌な上司に気を遣う必要もなくなりますし、満員電車でぐったりすることもなく、電話で仕事が中断されることも減る。実は職場というのは、人が話していたり電話がなっていたりと、刺激の多い環境なんです。自宅であれば好きな音楽をかけたりアロマを焚いたりと、自分が心地よく過ごせる環境を整えて、働くことができます。繊細さんは環境の影響を受けやすいので、自分に合う環境で働くことで、疲れにくくなり、パフォーマンスが上がる人も多いのです。
――繊細さんの場合、この辛い状況を敏感に感じ取って、今まで以上に心が疲れてしまっているのではないかと思っていました。
武田 私のもとには、「地に足が着かない」とか「心が休まらない」といった相談も寄せられています。「心が休まらない」というとき、実は「心」ではなく「頭」が休まっていないのですね。これは精神科医の泉谷閑示先生が提唱されている概念ですが、人には「頭」と「心」と「身体」があり、頭は「こうすべき」「こうしたほうがいい」など、過去や未来を考える働きをします。心と身体は一心同体であり、「~したい/したくない」「好き」「キライ」など、「今・ここ」に焦点をあてます。コロナ禍で不安な方も多いと思いますが、不安というのは頭が作り出すものなんですね。「これからどうなるだろう」など、未来をシュミレーションしようとして、不安になる。ですので、不安なときや考え続けてしまう時は、頭を休めることが必要なんです。そのためには、心と身体に意識を向けるといいですよ。
心と身体に意識を向けるとは、ゆっくりお茶を味わったり、景色を眺めたりと、五感を働かせることです。特にオススメなのは、体を動かすこと。ヨガや散歩など、身体を動かすと頭の考えが鎮まり、落ち着いてきます。イライラしたときに、一心にお風呂掃除をしてスッキリした、という経験のあるかたもいらっしゃるかもしれませんね。それと同じです。そうやって、頭から心と身体へ意識の主体を移すことが大切。身体に意識を向けるという意味で、編み物や刺繍などの手作業もおすすめですし、洗濯物を黙々と畳むとか、掃除、料理などもいいですね。単純作業は心を落ち着けてくれますよ。
――無理に前向きになろう、などともがかなくても、ちょっと体を動かしてみれば、意外と簡単に気持ちが切り替わるかもしれないのですね。
武田 そうなんです。それから「地に足が着かない」というのは、コロナ禍によって季節感が失われたことも要因のひとつかもしれません。春の花や夏の花火など、季節は五感で感じるもの。ですから、季節のイベントや行事を大切にしてみるのもおすすめです。繊細さんは五感が鋭いので、季節の変化を細やかに感じられます。季節によって空の色が違って見えたり、秋晴れを見るだけで嬉しくなったり……。繊細さんは、日常の小さな幸せに気づくのも得意ですから、ちょっとした季節の行事をおこなうことで大きなリフレッシュにつながると思います。
――もともとはHSPではなかったけれど、コロナ禍によってHSPになる、ということはあるのでしょうか?
武田 HSPは生まれつきの気質であり、途中で「なる」ものではありません。今のご質問は、不安や神経質な状態をHSPと混同されているんですね。誤解のないようにお伝えしておきたいのですが、HSPと神経質は別物です。HSPは生まれつき、小さなことによく気づくし、深く考える、というものです。一方、神経質な状態というのは、不安から身を守ろうとして、後天的に出てくるものです。繊細さんにも、非・繊細さんにも、神経質な人はいます。
たとえば、書類をぱっとみて誤字脱字に気づくというのは自然なことで、HSPにはよくあることです。一方、「間違ったらどうしようと不安で、何度も書類をチェックしてしまう」というのは神経質な状態ですね。背景に強い不安がある場合、それはおそらく神経質な状態です。神経質さはカウンセリングなどで軽減していけるものです。
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