――なるほど。繊細さんが増えた印象がありますが、それはどういうことなんでしょう? それより、繊細さを上手く生かすコツを知るほうが良さそう。

武田 アーロン博士によると、HSP(繊細さん)は5人に1人の割合でいるそうです。繊細さんが増えたようにみえるのは、繊細さんの数そのものが増えたわけではなく、自分が繊細さんだと気づく人が増えた、ということだと思います。テレビや雑誌でHSPという単語を目にするようになり、それまで自分がHSPだと知らなかった方々が「自分もそうだ」と気づく、という流れですね。

それに加えて、私は、社会の余裕の無さも関係していると思っています。今は成果主義・自己責任の世の中になっていて、ひとりひとりに心の余裕がありません。仕事のやり方が分からず先輩に尋ねても、先輩に余裕がないと「そのくらい自分で何とかしてよ」という対応になってしまう。そんななかで、悩んだり落ち込んだりしたときに、「仕事 つらい」とか「仕事 繊細すぎる」など検索をします。そのとき「HSP」という言葉をみつけ、「もしかしたら私はこれかも」と気づく、という流れがあります。余裕のない社会で仕事や人間関係に悩む人がふえ、結果的に、自分がHSPであることに気付く人が増えている、ということだと思っています。

 

自分がHSPだと知ることで「自分だけがおかしいんじゃないかと思っていたけど、他にも同じような人たちがいるんだ。いろんなことに気づくのは自分のせいじゃないんだ」と気づける良さがあります。ですが知るだけですべての悩みが解決できるわけではないので、具体的に悩みへの対処法を試してみたり、気質を活かす方法を模索できるといいですね。

 

――武田さんの本を読んで、「自分は繊細さんではないと思っていたけど、かなり当てはまっていた」という人もいるようです。実は繊細さんなのに無自覚なまま放置していると、どうなるのでしょうか?

武田 それは繊細さ=ネガティブなもの、という誤解からきている質問だと思います。「背が高いことを無自覚に放置していたらどうなるの?」と言われるのと同じで、変な質問です。誤解されやすいのですが、繊細さんだからといって皆が悩むわけではありません。自分が繊細さんだと知らないまま、元気に暮らしている繊細さんもたくさんいらっしゃいます。先ほどお伝えしたとおり、仕事や人間関係で悩んだときにネットで検索したり本を読んだりして「自分は繊細さんだったんだ」と気づくケースが多いんですね。なので、いま元気に暮らしている人は、そもそも自分が繊細さんだと気づく機会が少ないです。いま深刻な悩みがないのなら、自分が繊細さんだと知らなくても問題はないのではないでしょうか。

――悩んでいないのなら自分がHSPだと知らないままでも問題はないけれど、HSPだと気づかないまま頑張り過ぎて苦しんでいる人は、知ったほうがいいのかもしれませんね。

武田 そうですね。自分の繊細さに気づかないままだと、「自分の努力が足りないんだ」「気にしすぎる自分が悪いんだ」と、合わない職場や人間関係の中で頑張り続けてしまうことが起こります。そういった方がHSPだと知ることで「つらいのは、自分の努力が足りないんじゃなくて、今の職場が自分と合わないだけなんじゃないか」と思えるんです。努力の問題から、職場や人とのマッチングの問題へと視点が切り替わる。すると「じゃあ、自分に合う職場はどんなところだろう」と一歩踏み出せるようになります。それは、HSPが広く知られて良かったことのひとつです。

一方で、もし仮に、自分がHSPだとしても、無理に「私はHSPなんだ」と受け入れる必要はないと思います。HSPだと知って元気になる方もいれば、「HSPだと認めることは言い訳になる気がする」とおっしゃる方もいます。自分の気質をどうとらえるかや、受け入れるか、またそのタイミングも人それぞれちがいます。ただ、繊細さは、大変なこともたくさんあるけれど、毎日の小さな幸せにもよく気付けたり、相手を思いやれたりと、いい面もたくさんあることを知っていただけたらいいなと思います。

 

――HSPである自分を楽しむコツを知ったほうが、人生は大きく豊かになりそうですね。

武田 今の時代って、自分のためだけに幸せを感じたり、楽しんだりすることが、無駄で生産性のないことだと受け止められていますよね。でも私は、自分のための幸せ時間がないと、生きる意味がわからなくなってしまうと思うんです。幸せって、ご飯がおいしいとか、空がきれいだなぁとか「感じる」「味わう」ことの中にあるものです。繊細さんは、そういった日常のささやかな幸せに気づいて味わうことが得意なんですね。人一倍感じる感性を大切に、幸せをたくさん味わってほしいなと思います。

 

『今日も明日も「いいこと」がみつかる「繊細さん」の幸せリスト』
武田友紀・著 1300円(税別) ダイヤモンド社

繊細さんだからこそ感じられる幸せのコツを、HSP専門カウンセラーの武田友紀さんが綴った1冊。細かいことによく気がつく、人の悲しみなどに共感してしまう、といったことから心が疲れてしまっている方は、是非読んで。自分の繊細さは、実は幸せを感じるための素敵な才能なんだと気づけます!


取材・文/山本奈緒子
イラスト/Vectorium / Shutterstock
構成/山崎 恵

あなたも「繊細さん」?HSPの4つの特徴と繊細さを生かすコツ【武田友紀さん】>>

 
  • 1
  • 2